差別と政治 「国家の傷」癒やす融和の言葉を

白人至上主義などを掲げる団体と反対派との間で起きた米南部バージニア州の衝突から約2週間。米社会の人種対立が激化している。「緊張にガソリンを注いで(あおって)いる」(米フェニックス市長)張本人は、トランプ大統領。その事実に、暗たんたる思いがする。

「両陣営の責任だ」「左派も暴力的」「追加コメントをしたのに偽ニュースメディアは満足しない。本当に悪い連中だ!」…。トランプ氏は衝突直後、白人至上主義者や人種差別への明示的な非難をしなかった。批判を受け発生3日目にようやく言及したものの、すぐまたツイッターなどで「両成敗」を主張。差別擁護の姿勢に回帰した。

迷走の果てに、開き直ったように差別や偏見、うそにまみれた発言を公然と続けるトランプ氏の振る舞いは、大国のトップとして、一人の人間として、到底容認できない。人種や思想に基づく差別や攻撃は絶対悪で、正当化は決して許されない。

リンカーン大統領はかつて演説で、南北戦争を乗り越え「国家の傷」を治そうと国民に呼び掛けた。トランプ氏がまずなすべきは、謙虚な言葉でメッセージを打ち出し、分断が深まる米国の傷を癒やす融和に努めること。政治が率先して差別的な言動を繰り返し、批判に耳を傾けず攻撃し続ければ社会のたがは外れる。正義と自由、移民や人種への寛容さを国是とするはずの米国の針路を強く危惧する。

しかし、テロや犯罪につながる排外主義や差別主義の台頭、社会の不寛容、分断は米国だけの問題ではない。世界が、日本が直面している困難でもある。

日本では、特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)をなくすための「ヘイトスピーチ解消法」の施行から1年が過ぎた。

「不当な差別的言動は許されない」と法律に明記された意義は大きいが、対象は「適法に日本に居住する外国人」に限定されて、罰則もない。不法滞在者でも日本人でも差別は容認できず、対象拡大や、公共の場で人種差別行為を行わせないような法改正も検討すべきだろう。

だが、むしろ根深いのは「政治の差別」。鶴保庸介前沖縄北方担当相は昨秋、沖縄で機動隊員が住民に吐いた「土人」の暴言を「差別と断じることは到底できない」と擁護。政権も「謝罪や国会答弁撤回は不要」と閣議決定までして容認した。松井一郎大阪府知事も機動隊員をねぎらい、反対行動をする人に責任があるかのように主張した。米国を笑えぬ恥ずべき言動で、社会全体で「許さない」と言い続けねばならない。高校無償化制度からの朝鮮学校の排除には国連も懸念を示している。

米国の衝突では、為政者が差別を「批判しなかった」ことに多くの人が「ノー」の声を上げた。法律のみでは差別はやまない。個々の心の中にある憎しみの連鎖を絶ち、たゆまぬ共生への努力を誓う契機としたい。

ソース:愛媛新聞 2017年8月25日
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201708254025