(続き)

中国が主張する30万人はいくらなんでも多すぎるだろうが、日本人研究者やジャーナリストの調査でも、日本軍による相当数の中国人の殺傷・レイプがあったことは確認されている。

元日本兵の人たちが残した資料もある。被害者数が違うからといって、すべてを「なかったことにする」のは、歴史に対する向き合い方としては間違っていると思う。

ホロコーストの否定に至っては、さまざまな検証を経て国際的に共有されている歴史の理解に、根拠もなく喧嘩を売っているに等しい。たとえ国際的な常識であっても、学問的探究心から、それを疑い、検証する自由は尊重されるべきだ。

しかし、誠実な態度で研究・調査・検証をすることもなく、事実を無視した風説を流布することは、厳しく批判されて当然だろう。

それにしても、彼らはなぜ、かくも懸命になって、とりわけ日本の負の歴史から目を背けようとするのだろうか。

愛国心ゆえに?

はて……。

世界中を見渡しても、過去に過ちを犯したことがない国など、ないだろう。そうした負の歴史も豊かな歴史的財産も、過去のすべてを引き継ぎ、現在のさまざまな問題と向き合いながらも、自分の国に分かちがたい結びつきを感じ、よりよい未来があってほしいと願う。

それでこその愛国心ではないか。欠点も含めて、まるごとありのままに受け容れてこその「愛」だろう。過去に間違いがあることに耐えられず、事実を隠したり、ねじ曲げたりする態度は、決して「愛」とは呼べない。

だから、私たちの愛する国が、誤った歴史を繰り返すことがないよう、ここでしっかり言わなくてはならない。

「あったものをなかったことにはできない」と。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

(おわり)