関東大震災から94年となる1日、東京都立横網町公園(墨田区)の都慰霊堂で、震災で亡くなった人々を悼む都慰霊協会主催の大法要が営まれた。公園内では小池百合子都知事らが追悼文送付を断った朝鮮人犠牲者を追悼する式典や、その犠牲者数に疑義を唱える団体の慰霊祭も開催。

警察官や都庁職員らが警戒する中、小競り合いが散発し、「慰霊の日」の公園内は騒然とした空気に包まれた。



大法要には秋篠宮ご夫妻ご臨席の下、遺族や都の関係者ら約600人が出席。安藤立美副知事は「誰もが安心して暮らせる東京をつくり上げるため、防災対策に全力を尽くしたい」などとする小池氏の追悼の辞を代読した。

一方、公園内にある朝鮮人犠牲者追悼碑前で行われた「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」は日朝協会東京都連合会など複数の団体で構成される実行委員会が主催。

43回目の今年は、あいさつや哀悼の辞で小池氏や山本亨・墨田区長の追悼文送付取りやめを「流言飛語で命を奪われた犠牲者や遺族に寄り添う姿勢が全く見受けられない」と次々に批判する声が上がった。

この式典から数十メートル離れた場所で行われたのが、追悼碑の「6千人」とする朝鮮人犠牲者数に疑問を唱える女性団体「そよ風」が初めて開いた慰霊祭だ。鈴木由喜子代表は「生き残った人々は虐殺の加害者とされ誹謗(ひぼう)中傷を受けた。父祖の名誉回復に努める」と開催趣旨を説明する。

主張の異なる団体がそれぞれ式典を開催したことで、園内は警視庁の警察官や都職員らが厳重警戒していたが、一部の参加者や見物人らと警察官がたびたびもみ合いになるなど会場が騒然となる場面もあった。

毎年ボランティアで大法要の受付をしている墨田区の自営業男性(71)は「今年は特に警察の数が多く、例年とは違う雰囲気。慰霊の日なのだから、亡くなった人々の霊を静かに追悼する日であってほしい」と訴える。

この日、都庁で行われた小池氏の定例会見では、追悼文送付を断ったことに関する質問が相次いだ。小池氏は「大法要の追悼文で知事として、犠牲となられた全ての方々へ哀悼の意を表させていただいた」と改めて説明。

朝鮮人らに対する虐殺の有無についての考えを問われた際は「いろんな史実が書かれている。どれがどうなのかというのは歴史家がひもとくものではないか」と述べるにとどめた。

「朝鮮人虐殺」、殺害された人数・軍の関与…諸説あり

関東大震災の際に起きたとされる「朝鮮人虐殺」をめぐっては、殺害された朝鮮人の人数や軍、警察の関与に諸説があり通説的な見解はない。

平成20年に政府の中央防災会議の専門調査会が過去の災害教訓をまとめた報告書では、関東大震災時に発生した殺傷事件の全犠牲者数を「正確な数はつかめないが、震災による死者数の1〜数%」と推定。

朝鮮人犠牲者に関する記録として、司法省(当時)が作成した資料にある233人を提示した。朝鮮総督府が把握した震災による朝鮮人の死者・行方不明者832人という数字も挙げている。

このほか「本事業の目的は歴史的事実の究明ではない」と断った上で、殺傷事件を検証したコラムを掲載。朝鮮人の犠牲者数として、大韓民国臨時政府の機関誌「独立新聞」に掲載され、後に研究者らに多く引用された6661人などの数字を取り上げた。

一方、政府は今年5月、「虐殺事件」への日本政府の関与について、「調査した限りでは、政府内にその事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」とする答弁書を閣議決定した。「歴代政府が遺憾の意を表明したことについては確認できなかった」とも指摘している。

■関東大震災と「朝鮮人虐殺」

大正12年9月1日の関東大震災では、混乱の中で「朝鮮人が暴動を起こした」などの情報が流れ朝鮮人らが殺害された。

都立横網町公園には民間団体が建立し、現在は都所有の朝鮮人犠牲者追悼碑があり、「あやまった策動と流言蜚語(ひご)のため六千余名にのぼる朝鮮人が尊い生命を奪われた」などと刻まれているが、都は「6千人が正しいか、正しくないか特定できない」との立場をとっている。

http://www.sankei.com/premium/news/170902/prm1709020023-n1.html