「先ほど、上空をミサイルが通過したもようです」。先月末の北朝鮮による弾道ミサイル発射時、北海道や東北に放送が流れた。続けて「頑丈な建物や地下へ避難してください」。無機質な声に、ふと思う。「地下ってどこだ」▲

愛媛など地方には、地下がそう都合よくあるはずもない。いかにも東京の発想。しかも、発射から日本上空まで10分足らずで、住民は「発射を知ったころには、ミサイルが通り過ぎていた」「漁船の上だと逃げられない」。西条市での避難訓練参加者が語る「(発射が)起こらないことを願う」しかない現実に、無力感が募る▲

「本当に、何とかなると思ってたんよね」。戦中、竹やり訓練を体験した女性の言葉を思い出す。「国が米軍に対抗できると言っていたから。なぜ信じられたのか、今では不思議だけれど」▲

東京大空襲に遭った作家の半藤一利さんは、自著に「焼夷(しょうい)弾は恐れるに足らずなんてウソもいいところです」。国は戦意高揚のため、国民に「猛火にも立ち向かう」ことを求めた。バケツリレーに走って、どれだけ多くの人が犠牲になったことか▲

戦中の竹やり訓練もバケツリレーも精神主義的なもので、国民の命を救う手だてにはなり得なかった。現代の避難指示、訓練も恐らく▲

危機対応で、首相はたびたび「国民の生命、財産を守るために最善を尽くす」と言う。「訓練することに意義がある」では「平成の竹やり」でしかない。

https://www.ehime-np.co.jp/article/news201709025535