日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。

内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。

アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。

著しい経済発展に於いて、遊牧民も自給自足の生活から、なんでも手に入るようになり、昔のように大量の乾燥させた食料を準備する必要もなくなってきた。また、電気が草原の奥まで届き、冷蔵庫や冷凍庫が使用され、お肉も冷凍のまま新鮮に食べられるようになった。

携帯電話は日常必需品になった。私の母も中国語は一切読めないが、何十人の子供や親戚の名前を他人に頼んで、アドレス帳に入れ、どの番号が誰のかをちゃんと覚え、さらに中国版のSNSであるWechatもちゃんと使えるようになった。一回、冗談半分で何人かの名前を出して、これ誰の番号と聞いたら、答えは全部あっていた。驚きだった。

遊牧民の住まいもゲルからレンガ作りの家に変わり、牛糞を燃やす竃から、石炭と牛糞を併用するセントラルヒーティングに変わった家もかなり増えている。床は大理石になり、子供は朝から晩まで中国語のアニメに没頭し、昔の子供のように家畜に愛情を持ち、その世話をすることも滅多になくなった。

内モンゴルでは、自治区のモンゴル語チャンネルや各地方のモンゴル語チャンネルがある。24時間モンゴル語の番組が見られるようになっている。しかし、子供向けのアニメはあまり面白いものがなく、子供たちは中国語のアニメを見ることが多く、知らないうちに中国語が身につく。

さらに、小学1年生からモンゴル語と中国語を同時に教えられ、3年生からは英語の勉強も始まる。母語の基礎も固められないまま、3つの言語を勉強するので、学生たちにとっては重荷である。結局、モンゴル語があまりうまく喋られない子供も増えているのが事実である。

※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第2回」の一部を抜粋しました。

アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA)
1977年 内モンゴル生まれ
2001年 来日
2013年 日本写真芸術専門学校卒業
国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。
主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。

https://thepage.jp/detail/20170809-00000018-wordleaf