北朝鮮の挑発を止めるのは米国か中国か−。

北朝鮮を封じ込める力を持つのは中国であるが、朝鮮戦争で生まれた血で固められた絆を表す「血の友誼(ゆうぎ)」と呼ばれた中朝関係はすでに過去のものだ。中国の習近平国家主席はいま、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を相手にせず、正恩氏は中国への不信の塊となっている。

中国にとって北朝鮮は必要だが金正恩体制である必要はない、というのが不信の根源である。中国のレッドライン(越えてはならない一線)が次の核実験とされるなか、北朝鮮は着々と実験準備を進めている。中朝関係は今後、どうなるのか?

中朝にうずまく不信感

中朝トップの不信は根深い。中国側の不信は親中派の張成沢・国防委員会副委員長の処刑(2013年末)と金正恩氏の兄、金正男氏の暗殺(17年2月)に象徴される。

正恩氏のおじ、張成沢氏は改革開放を模索していた。正恩氏サイドは張成沢氏が中国に送った書簡を入手したとされ、国家転覆陰謀罪で惨殺した。その張成沢氏がかわいがっていたのが正恩氏の異母兄、正男氏だ。正男氏を中国は送ったのは張成沢氏であり、正男氏は中国の保護下にあった。その正男氏を正恩氏は暗殺した。

「金正恩氏には、中国は北朝鮮を必要としているが、自分を抹殺するかもしれない」(外交筋)という深い疑念があるという。

中国は、15年の「抗日戦勝70年」式典に韓国の朴槿恵大統領(当時)を招待、厚遇した。一方で、北朝鮮代表として正恩氏の名代で訪中した崔竜海書記は極めて冷遇された。正恩氏はこのときの訪中団に「中国の真意を探れ」と指令した。

北朝鮮は「自分たちの命綱を握っているのは中国」との認識から、中国に対する発言力を確保するため、すべての中国主要都市を射程にいれたミサイルを開発済みだ。「北朝鮮指導部はそれでも中国に脅威を感じている」(北朝鮮筋)。

中国にいらだつ金正恩首脳部は、昨春、朝鮮労働党が各地方の幹部教育用に作った文書で『中国の圧迫策動を核爆風の威力で断固、打ち砕こう』と反中的な呼びかけを全国に通達した。

背景には根深い疑心暗鬼があるためで、北朝鮮の核ミサイル・システム完成は対米戦略と同時に、「中国から手出しをされない担保を確保しようとしている」(同)ためだともされる。

他方、中国のレッドラインが本当に「第6回核実験」なのか否かは不透明だとの見方もある。

中国にとって「北朝鮮カード」は使い道がある。北朝鮮に核ミサイルが完成してしまえば、中国の戦略的地位は北朝鮮に干渉できる唯一の存在として、さらに米中関係で存在感を示すことも可能なのだ。中国は二枚舌、三枚舌外交がお手の物。北朝鮮が孤立すればするほど中国は有利になるという構造だ。

中国が持つ“北朝鮮の命綱”は数限りない。核ミサイル開発の歯止めとしていま最も注目されている石油禁輸をはじめ、中国の持つ北朝鮮内の港湾や鉱山の利権、北朝鮮労働者、合弁会社などさまざまな資産が中国の手中にある。

北朝鮮の市場で流通する通貨のほとんどは中国元で、北朝鮮の通貨(北朝鮮ウォン)は「モヤシは買えるがネギは買えない」といわれるほど価値がない。中朝関係が北朝鮮の命運を握っているのは間違いない。(編集委員)

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