弾道ミサイル連射に続けて、大型の核実験に踏み切った北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。

中国の習近平国家主席が金氏を抑え込めると思い込んだトランプ米大統領について、本欄は「習氏にだまされる」(8月3日発行)と指摘してきたが、トランプ氏も事ここに及んでそう悟ったようだ。(夕刊フジ)

今月3日には、ツイッターで「(中国の対北圧力は)ほとんど成果を上げなかった」とし、「北朝鮮とビジネスをする全ての国との貿易停止を検討している」とぶち上げた。中国のことである。

ムニューシン財務長官は大統領の指示を受けて「北朝鮮との取引を望む者は米国と取引できないようにする」と言明しているが、どの中国企業を制裁すべきなのか。「まだ調査に手間取っている」とも聞く。

本欄が折に触れて、提起してきたように、貿易データをみれば、北朝鮮問題の黒幕が中国であることは明白だ。中国はこれまで、幾度も北朝鮮に対する国連安全保障理事会による制裁案に抜け道を設けてきた。

今年3月には北朝鮮の最大の輸出品目である石炭の輸入を差し止め、北からの輸入総額は大きく減っている。7月の2度にわたる大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けた8月初旬の国連安保理では、北からの石炭、鉄鉱石の輸入禁止などが決議され、トランプ氏は当時、「制裁は10億ドル相当」とツイッターで上機嫌だった。

韓国政府の調査などによれば、北朝鮮の国内総生産(GDP)は年間300億〜400億ドル(約3兆3000億〜4兆4000億円)で、軍事支出は約100億ドルに上る。ミサイルや核開発を支えるのは外貨で、全輸出の約9割を占める中国向け輸出は、中国の貿易統計によれば2016年で27億ドルである。

このほかに、中国などへの出稼ぎ者からピンハネする分が年間約10億ドルという。トランプ氏が挙げた10億ドルの外貨断ちが額面通り実行されるなら、確かに打撃は大きいはずだが、盲点がある。

それは中国から増え続ける対北輸出である。今回の核実験を受けた国連制裁強化について、日米は北朝鮮向け石油の禁輸を求めているが、中国は石油ばかりか、大半の品目について北向け輸出を大きく増やしてきた。その結果、金正恩委員長は高笑いしながら、核・ミサイル開発に取り組むことができた。

北朝鮮は制裁によって輸出が減ると外貨収入が落ち込むので、軍用、民生用を問わず、輸入に支障をきたすはずだ。ところが、中国からの輸入は急増を続けている。なぜ、可能か。答えは簡単、中国が信用供与、つまり金融協力しているからだ。

グラフは以前にも紹介した中朝貿易の推移最新版である。中国側の対北輸出超過は輸出とともに膨らみ続け、年間12億ドル近い。対北制裁で実効を挙げるためには、個別品目うんぬんよりも中国の金融機関に対する制裁が欠かせない。安倍晋三政権はワシントンにそう提起すべきだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

http://www.sankei.com/premium/news/170909/prm1709090014-n1.html
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中国の対北朝鮮貿易(12カ月合計)