2万発以上の砲弾が降り注ぐ

韓国は、米朝開戦時の被害をどのように見積もっているのか。

韓国政府の朝鮮人民軍分析は、韓国軍や国家情報院、統一部などが取った情報、脱北者の証言、それにアメリカから提供された情報などに基づいて行っている。

本誌が入手した韓国政府の内部情報によれば、38度線の北側では、射程距離54kmで1分間に2発撃てる170mm自走砲550門余りと、同60kmで1分間に40発撃てる240mm放射砲440門余りが、ソウル首都圏に狙いを定めているとしている。

これらを合わせると、開戦時には、1時間あたり2万4000発以上もの砲弾が、それぞれの弾を発射後3分30秒でソウルに降り注ぐことになるという。

そうなれば、一般のビルやマンションばかりか、首都圏のガス管、ガソリンスタンド、電気通信施設なども根こそぎ破壊され、まさに1000万首都が火の海になると、韓国政府は分析しているのである。

その場合の死傷者は、一体どのくらいになるのか?

「1994年の第一次北朝鮮危機の際、アメリカ軍がクリントン政権に提出した評価見積もりによれば、開戦24時間以内に、ソウル首都圏で約150万人が死傷するとしています。

この見積もりは当時の金泳三政権に衝撃を与え、韓国政府は絶対に北朝鮮を空爆せぬよう、クリントン政権を説得しました。

その後、2004年に韓国の合同参謀本部が作成した『南北軍事力評価研究』では、開戦後24時間以内の韓国側の死傷者は、230万人と見積もっていることが判明。これはあくまでも、通常兵器による被害です」(ソウル在住ジャーナリスト・金敬哲氏)

1週間で500万人が死ぬ

この他、北朝鮮は現在、核兵器を含む化学兵器を2500〜5000t、生物兵器も炭疽菌、天然痘ウイルス、コレラ菌など12種類保有していると、韓国政府は見ている。

これらをノドン・ミサイルなどに搭載して撃つことも想定すると、米韓軍が北朝鮮の発射基地をストップさせるのに1週間かかるとして、それまでにソウルの人口の約半分にあたる500万人が死傷すると見積もっているのである。

死傷者500万人と言えば、韓国の総人口の1割。韓国には約3万8000人の日本人が住んでいることを考えれば、4000人近い日本人も犠牲になる計算となる。

「5月と6月に、在韓米軍はアメリカ人家族を対象にした避難訓練を、密かに実施しています。また8月に入って、在韓アメリカ人に避難勧告を出したとの噂が流れましたが、ソウルのアメリカ大使館は否定しています。

ちなみに在韓日本人に関しては、まだ避難勧告は出ていません」(前出の金氏)

そんな中、8月14日にソウルを訪問したアメリカ軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は、文在寅大統領に対して断言した。

「外交努力が失敗した場合には、わが国は軍事オプションを準備する」

8月21日から月末まで、米原子力空母カール・ビンソンとロナルド・レーガンが朝鮮半島近海に展開し、米韓合同軍事演習「乙支フリーダム・ガーディアン」を実施する。

米海軍のイージス艦10隻、原子力潜水艦3隻、戦闘機160機、トマホーク巡航ミサイル100発が、北朝鮮の目と鼻の先にやってくる。まさに、いつでも実戦に移行できる「実戦型演習」だ。

韓国で最も著名な北朝鮮専門家の鄭成長・世宗研究所統一戦略研究室長は言う。

「北朝鮮はICBMの追加実験、核兵器小型化のための核実験などを強行するリスクがあり、韓国だけではもはや解決が難しい状況です」

「ソウルが火の海」は、一歩一歩現実に近づいている――。

「週刊現代」2017年9月2日号より

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52796