私がまだ駆け出しの記者だった頃、ボーン上田賞を受賞したある国際報道の大御所記者から、こう言われた。

「国際報道の世界で、日本人記者が欧米人記者たちに勝てる場所は、日本と朝鮮半島、それに中国しかないんだよ」

私はまさにその通りだと思い、以後、自分の「守備範囲」を東アジアに絞った。

のっけからこんな話を書いたのは、日本メディアの北京特派員たちが、このところ立て続けに「スクープ記事」を連発しているからだ。いずれも、この秋に控えた第19回共産党大会に関するネタだ。

習近平、2期目人事「3つの掟破り」

中国は10月18日から、5年に一度の共産党大会を開催すると、8月31日に発表した。焦点は、2期目に入る習近平政権が、新たにどのような体制を組むかだ。特に、「トップ7」と呼ばれる共産党中央委員会政治局常務委員のメンバー、序列、職責などが最大のポイントである。

「トップ7」の顔ぶれは、8月上旬に河北省秦皇島市で開かれた、いわゆる「北戴河(ほくたいが)会議」で、習近平執行部が諮った。誰に諮ったかと言えば、現職及び過去の中央政治局委員、及び中央政治局常務委員たちに対してである。

北戴河会議で習近平執行部が諮った内容の核心部分は、様々なルートから漏れ伝わってきている。先月のこのコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52537)でその詳細を書いたが、再度要約すると、次の3点に収斂される。

@習近平総書記が、新たなポストである「党主席」に就任する。

党主席のポストは、毛沢東が1976年に死去するまで保持したが、個人崇拝が文化大革命の悲劇につながったという教訓から、1982年にケ小平が主導して廃止した。今回新たに「習近平党主席」を認めることは、習近平総書記が「2期10年」の習慣を破って、半永久政権を築くことを意味する。

A王岐山書記(序列6位)が国務院総理(首相)に就任する。

中国共産党は1997年の第15回党大会以来、大会開催時に68歳となった幹部は等しく引退することを習慣としてきた。現在69歳の王岐山書記を引退させないということは、5年後の第20回党大会時に69歳を迎える習近平総書記も引退しないことを示唆している。

かつ王岐山書記を首相に抜擢することは、現職の李克強首相が、実質的権限の乏しい全国人民代表大会常務委員長(国会議長)に横滑りさせられることを意味する。

B陳敏爾・重慶市党委書記を常務委員に抜擢する。

中国共産党は幹部人事に関して、一歩一歩昇進させることを原則としてきた(例外もままあるが)。その習慣に従えば、現在「中央委員」(トップ200)である陳敏爾書記が今回上がるとすれば、一つ上のクラスの中央政治局委員(トップ25)が妥当である。

ところが習近平総書記は7月15日に、中央政治局委員で次期常務委員の有力候補だった孫政才・重慶市党委書記を失脚させ、子飼いの陳敏爾書記のために道を開けた。

また、仮に陳書記が常務委員に2段飛びする場合、もう一人の有力後継者で、習近平総書記とは距離を置く胡春華・広東省党委書記と、どちらが上の序列に就くのかも問題になる。10年前の第17回党大会では、6位習近平、7位李克強となったことで、事実上の「習近平後継」が内定した。

以上が、8月の北戴河会議開幕までの状況である。

この3点について、結果がどうなったかは、10月の党大会の時まで「秘中の秘」である。かつ、これから1ヵ月半の間に変化もする。それだけに世界中のメディアの北京特派員たちが現在、最新の状況を何とかしてスッパ抜こうと、血眼になって追いかけているのである。

日本メディア発、4本のスクープ記事

まず、先行したのが、朝日新聞だった。8月23日付朝刊の11面に、延与光貞北京特派員の署名で、「王岐山氏の残留焦点 中国指導部、人事の季節」という見出しの記事が載った。その要旨は以下の通りだ。

・武漢大学の著名な生物学者の葬儀者リストから、「トップ7」の中で王岐山書記の名前だけが抜け落ちていた。
・次期「トップ7」には、栗戦書・党中央弁公庁主任や汪洋副首相らの昇格が有力視されている。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52794

>>2以降に続く)