>>1の続き)

・他に韓正・上海市党委書記や趙楽際・党組織部長、胡春華・広東省党委書記らの名前も挙がる。
・「第6世代」(ポスト習近平世代)では、習近平総書記の浙江省時代の部下だった陳敏爾・重慶市党委書記が、2段階昇格して常務委員になる可能性もある。
・習近平総書記に権力を集中させるため、「党主席制」の深津や、常務委員の数を減らす(トップ5にする)案も出ている。

私は勝手に断定的に列挙したが、朝日新聞の記事は、非常に慎重かつ非断定的な書き方をしている。「〜の名前も挙がる」「〜も注目される」「〜の可能性もある」と表記し、何一つ断定していない。

その理由としては、@北京特派員自身が確信を持てないでいる、A本社で曖昧な表現に直された、B情報源を守ろうとした、C朝日新聞北京支局が中国当局から睨まれるのを避けようとした、D実際にまだ確定していない、などが考えられる。

2番目に注目記事を出したのは、翌24日付読売新聞朝刊だった。一面で、「中国次期指導部リスト判明、王岐山氏の名前なし」というタイトルだ。署名がないので書いたのが誰なのかは不明。内容は以下の通りだ。

・王岐山書記は「68歳定年」の慣例に従い、常務委員などからの退任が有力視されている。
・李克強首相は留任する。
・陳敏爾・重慶市党委書記が常務委員に2階級昇進する。
・常務委員は、習近平、李克強、汪洋、胡春華、韓正、栗戦書、陳敏爾の7人(序列は不明)。
・北戴河会議には、胡錦濤前総書記、江沢民元総書記も参加した。

「王岐山引退」という点で前日の朝日新聞と一致しているが、だいぶ内容が具体的になった。

3番手は、8月28日付の毎日新聞一面トップ記事である。浦松丈二北京特派員の署名記事で、見出しは「『ポスト習』に陳氏内定 常務委入り、次世代筆頭」。記事の要旨は、以下の通りだ。

・陳敏爾・重慶市党委書記が、5年後に任期を終える習近平総書記の後継者に内定する人事が固まった。
・後継の「本命」と目されてきた胡春華・広東省党委書記は、陳書記の下位に位置づけられ、将来の首相候補となる。
・党規約に「習近平思想」を書き込み、終身指導者として陳書記の上にとどまる可能性もある。
この記事のポイントは、習近平主席の懐刀でダークホースの陳敏爾書記が、トップ7に抜擢され、かつ「ポスト習近平」の本命である胡春華書記を追い越すという点だ。

4番目は、翌29日付の日本経済新聞一面トップ記事だ。永井央紀北京特派員の署名記事で、「習氏、3期目可能に 秋の党大会で定年ルール変更」という見出しだ。

・68歳引退の定年ルールを見直す。
・それにより習近平総書記は、王岐山書記の留任を目指しているが、調整が難航している。
・習総書記は長期政権を目指して「党主席」の復活も提案している。
・栗戦書・党中央弁公庁主任と胡春華・広東省党委書記が常務委員になるとの見方が強まっている。

この記事は、習近平総書記が半永久政権を目指すことを告げている。

これら4本の記事が立て続けに出た後、8月31日に、中国共産党は第19回党大会を10月18日から開催すると発表した。

この4本の記事のうち、どれが正しくてどれが正しくなかったかは、来月の共産党大会で判明することになる。また、現時点では正しい情報でも、1ヵ月半のうちに変化していくこともある。

だが、記事の正誤はともかく、日本メディアの北京特派員たちが、「世界最大のブラックボックス」である中国の中枢の動向を日々、必死に追いかけ、欧米記者たちに先駆けてスクープ報道していく姿勢が、ひしひしと伝わってきた。

昨今、日本メディアの劣化が指摘される中で、非常に頼もしく思った次第である。やや大袈裟な言い方をすれば、戦前から連綿と続く日本メディアの中国報道・中国研究の伝統が、21世紀のいまもしっかりと引き継がれていることを示したのである。

全ては王岐山の去就次第

さて、それでは私はどう考えるかということを述べよう。

今回の共産党大会の主役は、もちろん習近平総書記だが、もう一人キーパーソンがいる。それは、この5年間の習近平体制を支えてきた最大の功労者である王岐山・中央規律検査委員会書記だ。現在の習近平政権は、「習王政権」と言っても過言ではない。

その王岐山書記が、来月の共産党大会をもって引退すると、私は見ている。少なくとも9月初旬の現段階において、習近平総書記は、王岐山書記の留任を決めきれていない。その意味では、前述の朝日新聞や読売新聞の報道の通りだ。

(続く)