>>1の続き)

韓国メディアでは、「サード配備に対する中国からの経済報復のせいだ」という論調が多かった。確かに、2016年7月に韓国政府が、米軍のサード配備の方針を決めて以来、これに強く反発した中国側の措置があったはずだ。

団体観光客の急減などは、そうした影響だったといえる。また、サード配備場所となったゴルフ場を売却したロッテグループに対する執拗な「措置」もなんらかの関係があるという見方が多い。

だが、最近、「経済報復だけが原因なのか」という見方も産業界では強まっている。ある企業人は語る。

「5年前に尖閣問題があったとき、中国側が日本企業に対してとった措置と比べれば、今回のサード配備に反対して中国側がとっている措置が強いとは言えないのではないか」

「にもかかわらず、深刻な打撃を受けている企業が多いのは、そもそも競争力にも問題があるのではないか」

競争力あるクルマなのか?

現代自動車、起亜自動車は2000年代半ばから中国市場で急速に販売を伸ばした。しかし、ここ数年は、中国メーカーに追い上げられていた。

さらに、品質面で日本メーカーとの差が開いているとの指摘も少なくない。にもかかわらず、決して安くなく、「結果としてクルマの競争力が差が低下していた」(前出の企業人)という。

最近中国を訪問した大学教授はこう話す。

「サードの影響は確かにある。だが、政府が、現代自動車や起亜自動車を買うなという指示など出していない。消費者が、『政府がこれだけ批判するのに、現代や起亜を買う必要があるのか』という雰囲気はある。こういう空気を乗り越えるプラスαが両社のクルマに欠けていたことは事実だ」と話す。

スマホについては、中国企業の躍進で、サムスン電子やLG電子の商品が埋没してしまったのだ。流通業も同じだ。

もともと、中国で流通業を運営することは容易ではない。新世界もロッテも、積極経営で店舗数を増やしてきたが、成功したという評価は、サード問題の前から聞こえてこなかった。サード問題が起きて、長年の問題が一気に顕在化してしまったのだ。

「中国なら売れるという時代は終わった」

韓国紙デスクはこう話す。

中韓国交樹立25年周年だが

2017年は、中韓国交樹立25周年にあたる。1992年以来、韓国企業は中国に本格的に進出して売り上げを伸ばしてきた。韓国の輸出の25%は中国向けで、最大の輸出相手国だ。

だが、この数字もよく見ると、2013年をピークにして徐々に減少している。

2017年1〜7月の中国向け輸出は増加に転じている。だが、これも、よく見ると、かなりの変化がある。半導体の輸出が急増、無線通信危機も善戦してるが、自動車部品は大幅減になっている。半導体は、8月に入っても、前年同期比40%増という伸びが続いている。

「中国にとって必要な製品」は相変わらず、絶好調だが、そうでない製品は、まったく不振なのだ。

2017年9月7日、韓国南部の慶尚北道星州(ソンジュ)に米軍のサードが配備された。地元住民や一部市民団体が強く反発する中での「配備強行」だった。中国政府は、中国駐在の韓国大使を外務省に呼んで抗議するなど強く反発した。

韓国メディアによると、一部中国のテレビは、星州に中継車まで送り込んでサード配備の模様を「ほとんど生中継のように大きく報じた」という。

中国政府だけでなく、メディアもサード配備に批判的な報道を続けた。中でも、韓国政府が配備方針を決めた6日付の「環球時報」の激烈な内容の社説だった。

「サード配備を支持する韓国の保守派はキムチばかり食べてぼけてしまった」

あまりの表現に、韓国政府は、韓国の食文化などを貶めたと抗議したほどだ。韓国の産業界は、中韓関係の悪化に恐怖感さえ感じている。「こんな時にわざわざ韓国製品を買う必要があるのか・・・」というイメージは、それなりに強烈だ。すべてを「サードのせい」と言えないことも、これ以上に深刻な問題だ。

サードは、一部韓国企業の競争力の低下をさらに増幅させているからだ。

10年前の李健熙会長の警告

いまからちょうど10年前の2007年、サムスングループの李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)会長は、就任20年を迎え、こう話した。

(続く)