安保法成立2年 「北の脅威」利用するな

集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の米軍に対する防衛協力を大幅に拡大した安全保障法制の成立からきのうで2年を迎えた。

広範な国民の抗議の高まりを無視し、与党が採決を数の力で強行した安保法には、各地で違憲訴訟が起こされるなど今も廃止を求める声がやまない。

一方、自民党内からは核・ミサイル開発に狂奔する北朝鮮の「脅威」を唱え、来月実施が確実な衆院選で安保法制定の正しさを訴えるべきだとの声も出ている。

だが、北朝鮮の挑発の対象は基本的に日本ではなく米国だ。日米の軍事的一体化は緊張をより高め、日本が標的にされ、米国の戦争に巻き込まれる危険をはらむ。

先週、海上自衛隊の補給艦が4月以降、日本海で北朝鮮に対する弾道ミサイル防衛(BMD)に当たる米イージス艦に洋上給油を実施している事実が判明した。

5月には海自護衛艦による「米艦防護」も行われた。

いずれも安保法で可能になった新任務だが、政府は公式には実施を明らかにしていない。

南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣した陸上自衛隊部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題の反省もないまま、安保政策の重大な変更が国民への説明抜きでなし崩しに進められている。見過ごせぬ事態だ。

本来なら臨時国会で追及されるべきだが、安倍晋三首相は論戦を素通りし大義なき解散に突入しようとしている。ならば、衆院選を通じ政権の2年間の対応をしっかり検証するほかない。

日本が守ってきた専守防衛の一線を踏み越えようとする動きは、ほかにも相次いでいる。自民党内で北朝鮮への敵基地攻撃能力の保有論が高まっているのは一例だ。

また、小野寺五典防衛相は北朝鮮から米領グアム周辺へ向けた弾道ミサイル発射計画に関し、集団的自衛権の行使による迎撃も可能との見解を示した。

集団的自衛権の行使は日本と密接な関係にある他国が武力攻撃を受けたことが前提になる。グアム方向への発射だけではその条件さえ判然としないのに迎撃可能とは、脅威への便乗ではないか。

石破茂元自民党幹事長は国是の非核三原則を見直し、米軍の核の日本配備を議論すべきだという。

「核には核」の発想は北朝鮮に日本攻撃の口実を与えるだけでなく、唯一の被爆国として絶対認められない。そんな当然のことを訴えなければならないほど、安保論議は危うい方向に進んでいる。

ソース:北海道新聞 09/20 05:05
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/133230?rct=c_editorial