【時代の正体取材班=田崎 基】かつてここまで卑怯(ひきょう)な手に出てくる首相がいただろうか。自らにかけられた疑惑を拭い去る努力をしようともせず、臨時国会を開けという野党の要求を無視し続け、いざ開くとなったら解散するという。

理由に挙げたのは「国難突破」。そこにひとかけらの合理性も見いだすことはできない。総選挙はしかし行われ、私たちはなぜか選択を迫られる。ならば立てるべき問いはこうなる。「そうした安倍政権でいいですか」−。

解散を表明した25日の記者会見で安倍晋三首相はこう言った。

「少子高齢化、緊迫する北朝鮮情勢。まさに国難とも呼ぶべき事態に強いリーダーシップを発揮する。自らが先頭に立って、国難に立ち向かっていく」

「少子高齢化」と「北朝鮮情勢」を「国難」とし、対応策を「国論を二分するような大改革」だと言う。だが少子高齢化はいまに始まったことではない。

安倍首相は、消費税を8%から10%へ引き上げることで生まれる財源「5兆円強」の一部を、これまでの財政再建だけでなく、子育て世代への投資や社会保障の充実へ振り向けるという。この決断について国民からの信任が必要、と説明した。

もっともらしく語ってみせたが安倍首相は2016年6月、通常国会閉会後に「これまでのお約束とは異なる新しい判断」と言い、10%への引き上げ時期を再延期している。法律に明記された重要な決定事項を一方的に反故にすることはいとわないのに、今回の消費税財源の使途変更については解散で信を問うというのは論理的一貫性を欠く。

そもそも「消費増税財源を子育て支援に回す」という政策自体が国論を二分する争点だろうか。しかも10%への引き上げは19年10月だ。なぜ2年も先の増税について「いま」解散によって国民に是非を問わなければならないのか。

安倍首相は早速、逃げの布石を打つかのように26日のテレビ番組で、経済状況が大幅に悪化した場合には再び増税を延期する可能性さえ示唆した。もはや解散理由に寸分の合理性も見いだせないばかりでなく、発する言葉そのものが疑わしい。

危機の偽装

国難の二つ目に挙げたのが「北朝鮮情勢」だ。15年9月に強行採決した安全保障関連法の必要性について安倍首相は「東アジアの安全保障環境は厳しさを増している」と強調し続けた。

国会周辺では毎週、数千、数万人規模の抗議デモが行われ、ほぼ全ての憲法学者が「違憲」だと断じ、世論調査でも反対が賛成を圧倒していった。まさに「国論を二分する」争点であったが安倍首相は耳を傾けることなく、数々の手続きや慣例を踏みにじり強行したのだった。

結果はどうだ。北朝鮮は一層孤立し、態度を硬化させ、核実験やミサイル発射を繰り返している。日本が置かれている現状は、日米一体となった軍事体制を強化するほどに、脅威にさらされるという不条理に他ならない。

安倍首相はしかし解散会見でこう言い放った。「対話のための対話には意味がありません」

こうも言った。「今後ともあらゆる手段による圧力を最大限まで高めていくほかに道はない。私はそう確信しています」

北朝鮮に明るい未来はあり得ないと勇んでみせたが、安倍首相の言う「最大限の圧力」の先に日本の明るい未来はあるのか。現実に起きていることと、政府の反応、そしてその両者ともかけ離れた安倍首相の発言。

北朝鮮の危機をあおり立て、ついに解散の理由にまで仕立て上げた欺瞞。これもまた安倍政権が解決に向けた道筋を示すことなく先送りし続けてきた政治課題に他ならない。

浅薄な打算

解散の深意に目を凝らせば、思惑はつまりこうだ。野党第1党の民進党が、週刊誌報道などによって幹部人事でつまずき弱体化、求心力を失い、その一方で自民党の支持率が持ち直しつつある「いま」解散総選挙に打って出て、党勢の減退を最小限に食い止めつつ、任期を延長しよう。

7月の都議選で自民党を惨敗させた小池百合子都知事率いる「都民ファースト」の国政政党「希望の党」も、いまなら衆院選を戦える十分な態勢は整っていない。

https://www.kanaloco.jp/article/280599/

>>2以降に続く)