作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、韓国の取り組みから平和について考える。

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 安倍さんが北朝鮮の脅威をうたってピリピリしている日本にいると信じられない話なのですが。

 9月21〜28日の8日間にわたって、DMZ(韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線沿いの非武装地帯)で、DMZ国際ドキュメンタリー映画祭が開催された。南北統一と平和を願う映画祭で今年で9回目。年々規模が拡大していて、今年はこれまでで最大、109カ国1187本の作品から選ばれた42カ国114本のドキュメンタリーが公開された。

 映画祭のホームページにはこう記してある。

「暴力と悲劇が開始されたこの場所が、平和とコミュニケーション、そして生命のメッセージを描いたドキュメンタリーを通じ世界人たちと共にする祭りの場に生まれ変わることを願います」

 繰り返しますが、北朝鮮ガー!と騒いでいる日本のお隣の韓国で、最も北朝鮮に近い現場で起きている「お祭り」の話です。

 実際に参加した友人によれば、オープニングは元米軍基地のキャンプグリーブスで行われ、写真撮影など制限されることもあるという。それでも映画祭が始まれば、例えばエデュケーションの枠組みがあり、そこには小学生たちが集まり「ドキュメンタリー映画とは?」などと語り合う教育が行われるという。つまりそこはお商売だけでなく、人を育てる教育の場でもあるのだ。さらに韓国の映画プロデューサーに女性が多く、決定権のある場に男ばかりが並ぶ日本とは雲泥の差だという。そう、何から何まで、日本から見れば想定外の自由とスケールと民主主義感だ。

 私は映画祭には参加しなかったが、同じ時期に韓国を旅していた。今年、全州市の市長が廃業した風俗店を買い取り、芸術の場としてアーティストたちに提供したのだ。ちょうど映画祭と同じ週、若いアーティストたちが空っぽになった元風俗店を利用して、性売買を考える作品を展示していた。フェミニスト団体が風俗で働く女性たちの職業支援やカウンセリングを丁寧に行っているのも知った。「売る側」の背景を知り、性売買について社会が考える機会を、行政と女性団体が協力して実現させたのだ。日本で言えば、吉原を台東区長が買い取り、フェミやアーティストに譲渡する、という感じなんだろうけど……想像できないです。

 韓国でタクシーに乗っていると、北朝鮮の状況が報道される。テレビでもトランプの勇ましさがニュースで流れる。だけれど、ここは、いたって冷静。今も“戦争中”の韓国の人々が、平和を手放さないための現実を思考し、大統領自らが対話を諦めない姿勢を見せる。それに比べ、安倍さんとその仲間たちの「対話ではなく圧力だ!」と拳を振り上げる激情にくらくらする。有事気取りはいい加減にしてほしい。北朝鮮よりも、まじで日本が怖い。

 地球規模でグロテスクな様が増している。だからこそ、分断された国が分断の現場で平和に向き合おうとする、その知と、文化の力にこそ、耳を傾けよう。

※週刊朝日 2017年10月13日号

2017.10.6 16:00 AERA
https://dot.asahi.com/wa/2017100400068.html