シンガポールは親日国だ。有名ラーメン店の系列店や和食レストランには行列ができ、旅行先として日本は人気。私が日本人と知ると「今度、旅行で行くよ」と笑顔で話してくれる人も多い。一方で、戦争が残した暗い影に接することもある。

75年前の1942年2月、英国植民地だったシンガポールは日本に占領され「昭南島」と呼ばれるようになった。旧日本軍は反日と疑った大勢の中国系住民を虐殺した。

2月、占領下の史料などを集めた博物館がリニューアルオープンした際、シンガポールが受けた傷の深さが浮き彫りになった。「昭南ギャラリー」と改称されたことに、「占領時代を美化しているようだ」と強い反発が広がったのだ。

開館式典に出席した男性(87)は「憲兵隊に連れ去られ、二度と帰れなくなるとの恐怖がまん延していた。あの時代の苦しみや困難を思い出す」と語った。所管大臣が開館2日後に謝罪、名称は「日本の占領を生き抜いて」に変更された。

ある日、中心部のホテルに幽霊が出るとのうわさが友人と話題になった。「戦時中、あの地域で君の国の人たちに大勢が殺されたから」。なにげない会話での言葉だったが、とげのある言い方にはっとさせられた。

シンガポールは義務兵役制を導入、違反には懲役刑が科されるほど徹底している。軍高官は「日本でなければ、他の国に占領されていたかもしれない。『自分の国は自分で守らなければならない』との教訓からだ」と説明してくれた。

本当の意味で教訓が生かされ、私たちの世代が戦争に巻き込まれないことを心から願っている。(共同通信=シンガポール支局・鈴木理紗)

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1942年に駐シンガポールの英軍が旧日本軍に降伏した際の会議室を再現した博物館の展示=2月、シンガポール(共同)