「核兵器の本質」とは?

戦後日本の「国体」ともいえる「朝鮮戦争レジーム」は、いま最終局面を迎えている。このまま半永久的に続いてしまうのか。それとも解消へと向かうのか。実はこれまで、絶対に揺るがないように見えていたその体制が、終わりを告げる可能性が出てきているのだ。

そのことについて説明する前に、読者のみなさんには、ひとつだけおぼえておいてほしいことがある。それは「核兵器の本質」が、「置いた国と置いた国のあいだで撃ち合いの関係になる」ということだ。そして一発でも撃ち合えばその被害があまりにも大きいため、両者の間には「恐怖の均衡」が成立する。

アメリカとロシア・中国の間には、すでにこの「恐怖の均衡」が成立しており、両者が直接戦争する可能性が消滅して久しい。そしてさらにいま、少し前まで誰も予想しなかったことだが、北朝鮮とアメリカの間にも、この「恐怖の均衡」が成立(※)しつつあるのである。

※註 北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の急速な発展の背後には、ロシアからの技術流出(または技術協力)の存在が確実視されており、現在でも精度はともかくとして、距離的にはアメリカ本土に届く可能性が高いと考えられている。

バノンが明かしたアメリカ政府の本音

米軍にすっかり支配された日本の言論空間のなかでは、決して語られることのない多くの事実がある。「朝鮮戦争レジーム」の根幹である北朝鮮問題については、とくにその傾向が強い。だからわれわれ日本人の常識は、世界の常識とまったく違ってしまっているのだ。

その証拠に、たとえば今年の8月、トランプ政権の本音をバラしすぎて解任された、トランプ大統領の側近中の側近、スティーブン・バノン首席戦略官の問題の発言を見てみよう(いずれも2017年8月16日のニュースサイト「アメリカン・プロスペクト」より)。

「北朝鮮問題に軍事的解決などない。まったくない。開戦30分でソウルの市民1000万人が通常兵器で死亡するという問題を、少しでも解決しないかぎり、(軍事的解決など)意味不明だ」

これはアメリカの本音というよりも、世界の常識だと言えるだろう。1994年の第一次核危機で、「韓国側に50万人の死者が出る」という予測が出たために、北朝鮮への軍事攻撃を思いとどまったアメリカが、どうしていま、本格的な核の撃ち合いなど容認することができるだろう。トランプも、もちろん本当はそのことをよくわかっている。

メルケル首相やプーチン大統領が「北朝鮮問題に軍事的解決などない」とくり返し警告しているのは、トランプや金正恩に対してというよりも、むしろ自分たちが一番危険であるにもかかわらず、なぜか声高に強攻策を主張しつづける、理解不能な日本の首相へのメッセージなのである。

「中国が北朝鮮の核開発を凍結させ、きちんとした査察を受けさせるなら、米軍を朝鮮半島から撤退させるという交渉もありえる。もっとも、かなり先の話になるだろうが」

バノンのこの発言も、多くの日本人にとっては非常に意外かもしれない。米軍が日本や韓国から撤退することなど、絶対にありえないとほとんどの人が考えているからだ。

しかし国際的な常識からいえば、このバノンの発言は、ごく当然の話なのである。朝鮮戦争(※)を北朝鮮とともに戦った中国軍は、すでに1968年には朝鮮半島から完全に撤退している。休戦から64年もたつのだから、米軍も撤退するのが本来は当たり前なのである。

※註 このときの米軍は、国連安保理で「国連軍旗の使用」などを認められていたため「朝鮮国連軍」とよばれることもあるが、軍の指揮権は完全に米軍司令官がもっており、国連はいっさいそれに関与できなかったため、その実態が米軍であることは明らかである。

日本の未来を切り開くために

こうして生まれた新しい状況のなかで、私たち日本人が今後注意しておくべきことは、たったひとつしかない。それは総選挙後に始まる安全保障の議論のなかで、「核兵器の地上への配備だけは絶対に認めてはならない」ということである。

これから米軍、とくに日本と韓国に軍をおく米太平洋軍は、日韓両国に核兵器を地上配備させようと猛烈なプレッシャーをかけてくるだろう。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53127

(続く)