スイスに本部を置くNGO「The Global Initiative Against Transnational Organized Crime(国際組織犯罪対策会議)」が今年9月、北朝鮮の“犯罪行為”に関するレポートを発表した。日本でも反響を呼んだのは、アフリカに駐在する北朝鮮の外交官が、象牙やサイの角を違法に取引している実態が明らかになったからだ。

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象牙やサイの角の取引は、ワシントン条約などで原則禁止。しかし象牙は印鑑、サイの角は漢方薬などの需要が根強く、依然として密猟・密輸が横行している。では、どうして北朝鮮の外交官が、遠いアフリカの地で暗躍しているのか。その説明には少し歴史を遡る必要がある。

北朝鮮は1960〜70年代にかけて、積極的にアフリカ諸国と国交を樹立してきた。当時は冷戦期であり、同じ“東側陣営”であるはずの中国とソ連の対立が顕在化。当時の金日成主席が対策として「第三世界外交」を活発化させたのだ。

現在、アフリカの国連加盟国は54カ国。その中で北朝鮮との国交断絶が取沙汰されているのは、南アフリカに囲まれたレソト王国のみ。しかも専門家の間には断絶への異論も存在するようだ。たとえ断絶が事実だとしても、北朝鮮がアフリカに大きな“橋頭堡”を築いているのは間違いない。

こうして北朝鮮は外交官の外交特権を利用し、アフリカで象牙とサイの角の密輸で外貨を獲得してきた。NGOのレポートによれば1986年以来、サイの角や象牙の密売買事件29件のうち、少なくとも18件で北朝鮮の外交官が関与していたという。

例えば2016年にはエチオピアの国際空港で大量の象牙を持ち出そうとして外交官パスポートを持つ2人の男が拘束。15年には南アフリカ共和国に駐在する北朝鮮大使館員ら2人の男が、モザンビーク共和国で地元警察の捜査を受け、車からサイの角4.5キロと、現金10万ドルが発見されている。

核・ミサイル開発の資金源が偽ドル札の可能性

こうした「国家が運営する裏ビジネス」は、北朝鮮のお家芸だ。例えば90年代には、北朝鮮が国家的事業として偽ドル札を発行し、世界的な問題となった。専門家が「本物より精巧」と驚愕したことから、「スーパーノート」や「スーパーK」といった異名が付けられた。

ところが近年、日本における「スーパーノート」の報道は減少傾向。米CIAの自作自演という陰謀史観めいた憶測も飛び交っている。最新事情はどうなっているのか、北朝鮮事情に詳しい宮塚コリア研究所の宮塚利雄代表に訊いた。

「まず重要なのは、北朝鮮で自国のウォンは紙屑以下だということです。貿易や密輸を通じて円やユーロ、そしてルーブルも入っているようですが、少なくとも庶民には扱いにくい。彼らは日常生活レベルなら中国の元を使いますが、やはり本命は米ドルです。自国が崩壊しても、脱北に成功したとしても、米ドルなら世界各国、問答無用で使える。元も円もユーロも、当然ながらルーブルも、ドルほどの信頼はしていないようです」

宮塚代表は中国と北朝鮮の国境で行われる密貿易の様子を観察し、興味深いことに気付いたという。

「中国側も北朝鮮側も、取引の最初は相手のことを信頼していないので、元を使って決済するんです。ところが何度もビジネスを続けていき、『こいつとなら今後も商売ができる』と判断すると、米ドルを使うようになるんです」

こうして北朝鮮は国家も国民も米ドルを必要としている。それは偽ドル札の発行の背景になっていると、宮塚代表は指摘する。

「北朝鮮の国民にとって、かつては朝鮮労働党員として出世していくことが最高の夢でした。それが今では米ドルを扱える人間が憧れの対象となっています。労働党員より密輸バイヤーの方が羨ましがられるわけです。

国家と国民が一丸となって米ドル獲得に血道を上げているわけですが、大した輸出品があるわけではないので、必要な額を集められないことの方が多い。ならばいっそのことドルを刷ってしまえ、というのがスーパーノートの原点です。現在のように核・ミサイル開発で巨額の資金が必要な場合、偽ドル札のニーズは高まっています。北朝鮮がICBM開発に必要な資金をスーパーノートで用立てているとしても、全く不思議はないと思います」

https://www.dailyshincho.jp/article/2017/10130615/?all=1

>>2以降に続く)