「落ち目の権力者は、外に敵をつくってナショナリズムを煽る」という世界に共通する言葉がある。北朝鮮、米国、日本のリーダーが、それぞれの敵を強調して、ナショナリズムを煽っている状況を見て、そんな言葉を思い浮かべた。

北朝鮮の金正恩委員長が落ち目なのかどうかは分からないが、政敵を次々と葬っているところをみると、圧倒的な支持を受けてはいないのだろう。トランプ大統領や安倍首相は、それぞれ別の理由で支持率の低下に悩んでいる。

それにしても、このところの北朝鮮の挑発ぶりには驚く。8月29日に日本列島を飛び越えるミサイルを打ち上げ、9月3日には6回目の核実験をおこない、「水爆を完成させた」と発表、さらに9月15日には日本を越えて3700キロも飛ぶミサイルを打ち上げた。

私は毎朝、7時のNHKニュースを見ているが、15日は「台風18号が…」と始まったとたん、政府発表の「Jアラート・国民保護に関する情報」に切り替わり、北海道から長野県まで12道県の人たちに「建物の中か地下に避難してください」と呼びかけたのだ。

その日の7時のニュースの番組予告には「台風18号、高齢者の免許、進む原子力離れ…」といった項目がならんでいたが、それらはすべて飛ばし、ニュースの内容は「ミサイル一色」になったのである。

そのこと自体は、大きな臨時ニュースが飛び込んでくればよくあることで、珍しいことではないが、問題はその内容である。ミサイルは日本のはるか上空を飛び越え、太平洋上に7時16分に落下し、被害はなかったことを報じながらも、NHKは同じニュースを延々と放映し続けたのだ。

午前8時、朝ドラの「ひよっこ」を飛ばす。つづいて「あさイチ」を飛ばす。午前9時をまわっても、まだ続いている。私が9時半に家を出るまで2時間半は同じニュースを繰り返していたのだ。

その間、NHKは狂ったのか、と思いながら、チャンネルと回すと、どこの民放も同じような放送をやっている。北朝鮮のミサイルが日本の上空を飛び越えたのは、これが初めてというのならまだ分かるが、6回目なのである。

しかも、政府が「わが国の領空を」と発表してあとで訂正していたように、日本の上空の宇宙空間は、領空ではなく各国の人工衛星が飛び交っているところなのだ。

まるで、戦時中の「空襲警報発令!」「大本営発表!」のような騒ぎではないか。防空演習のような避難騒ぎや、列車まで止めたりするなんて論外だろう。

なぜ、こんなことが起こるのか。Jアラートなんか出すな、とはいわない。しかし、日本の上空を通り過ぎたあとに「建物の中や地下に避難せよ」と繰り返し放送するのは、やりすぎではないか。

とくに、NHKは公共放送なのだ。日本の上空を飛び越えたミサイルより、台風18号のほうが、その影響下に入りつつあった西日本の人たち、とくに九州や沖縄の人たちにとっては「知りたいニュース」だったのではあるまいか。

NHKは、国営放送ではなく公共放送なのだということを、しっかり肝に命じていてもらいたい。

日本のテレビ局は、政府の意向に忠実でありすぎる?

日本のテレビ局が政府の電波行政のもとに置かれ、自主性、独立性に欠けるところがあるのは、日本の欠陥だと前々からいわれている。放送法の第4条にある「政治的中立」も、政府の言い分だけでなく反対の少数意見も取り上げるようにという趣旨で設けられたものなのに、政府の都合のいいように利用されている。

そのせいか、日本のテレビ局は、NHKをはじめ、どのテレビ局も政府の意向に添おうとし過ぎるところがあるようだ。そういう目で見ると、今回のミサイルをめぐるテレビ局の「狂ったような対応」も分かったような気がしてくる。

安倍政権は北朝鮮の脅威をできるだけ強調したいほうで、それによって防衛費の増額などにつなげたいとしているようだ。それだけでなく、安倍政権に対する支持率も、北朝鮮がミサイルを打ち上げたり核実験をしたりするたびに、上昇するのだ。

事実、森友学園、加計学園問題などで安倍政権の支持率が7月ごろから急落し、東京都議選でも惨敗したが、北朝鮮の相次ぐ挑発で、9月の支持率はぐんと回復の兆しが見えてきた。(以下略)

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(続く)