>>1の続き)

かくかくしかじか......おたくに無断転載されたんですが......と話すと、電話を受けた編集者は「ハハハ、うちの新聞はね。海外メディアの記事を翻訳して載せるのがメインの仕事。いつも許可をもらってないし、利用料も払ってないのさ」とあっけらかんと答えた。

そう、環球時報はアグレッシブな社説&コラムばかりが知られているが、基本は海外情報紙。海外メディア記事の翻訳で紙面の大半が構成されているのである。一切利用料を支払わずに紙面を構成しているとは......一応知っていたが、こうもあっけらかんと話されると驚きである。なんかこう、もう少し恥じらいがあってもいいのではないのだろうか。

とはいえ、「ハハハ」とだけ聞いて引き下がっては沽券に関わる。食らいついてみると、対外伝播部のWさんという人を紹介された。改めて記事の無断転載について説明すると......。

「ニーハオ! 高口先生。編集部に問い合わせて、あなたの記事の転載を確認いたしました。原稿料をお支払いいたします。

国家新聞出版広電総局の"文字作品報酬支払い弁法"に関する規定によると、転載原稿の原稿料は1000字単位で支払われます。1000字当たり100元、500字以上1000字未満は1000字として扱われます。あなたの転載記事は500字以下でしたので、お支払いできる原稿料は50元となります。支払いは人民元のみで別の通貨ではお支払いできません」

――とあっさり原稿料支払いの申し出が。といっても50元(約850円)だけ。環球時報にかけた電話代だけでも赤字間違いなし!の原稿料である。とほほ。

中国共産党としては転載はむしろありがたい

発行部数200万部、天下の環球時報である。もう少し原稿料ちょーだい、せめて国際電話代になるぐらいは下さいというのが私の要求であったが、「法律」がある以上はどうしようもない。そう、中国では記事の転載は基本OKであり、その場合の執筆者への支払い金額も政府によるガイドライン(1000文字100元)が定められている。

また、初出メディアへの報酬支払いの規定はない。支払い対象はあくまで執筆者である。今回のケースだと、環球時報がニューズウィーク日本版に支払いをする義理はないのだ。

なぜこんな転載上等の法律があるのだろうか。そこには、中国の新聞はほとんどが党組織の機関紙だという事情がある。すなわち中央政府、省庁、党組織から始まり、地方組織に至るまであらゆる組織が機関紙を持っているのだ。

中国には約2000紙の新聞があると言われているが、ほとんどは独自の取材能力を持っていない。社説&転載記事、そして広告によって埋め尽くされている。中国共産党としても、お上の指令を末端に伝えるには転載はむしろありがたい。というわけで転載に関する法制度ががっつりと用意されているというわけだ。

となると、経費をかけて真面目な独自記事を書くのがバカらしい話になってしまうが、一応の救済策は用意されている。「転載不可」とサイトに明記しておけば転載してはいけないことになっている。

実はニューズウィーク日本語ウェブサイトにも「Newsweekjapan.jpに掲載の記事・写真・イラスト等すべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます」と書いてあるのだが、この点について環球時報はどう考えているのだろうか。

明らかな違法行為ではないか、原稿料上げて!と勢い込んでこの点を指摘すると、「そうですか? もし転載されるのが嫌ながらその旨を伝えていただければ今後は転載いたしません」と軽くあしらわれて終わってしまった。

まあ、中国でも完全な転載がダメとなると、「某誌は次のように報じている。すなわち***」といったスタイルでほとんど転載と変わらないような記事が載ることもしばしばなので、あんまりつっこんでも仕方がないのかもしれない。

というわけで、編集部の指令によって始まった私の原稿料回収の旅は、50元(約850円)という微妙なお金で決着してしまった。ちなみに、原稿料の支払いは中国が世界に誇るモバイル決済によって送金されたことも申し添えておく。

交渉していたチャットでそのままお金も送れる。話がついた10秒後には着金。早い。簡単便利高速楽ちんである。

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このとおり、環球時報からWeChatで50元(約850円)の原稿料が送金されてきた 提供:筆者

(続く)