トランプ米大統領のアジア歴訪に韓国がピリピリしている。米韓同盟の「最前線」である南北軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)訪問が見送られる公算が大きくなっており、そこには文在寅政権の強い意向が働いているもようだ。

韓国へは国賓訪問で日本への実務訪問より“格上”なのだが、日米蜜月を背景に充実している訪日に比べ、訪韓は日程も短く内容も地味。米韓軍による合同軍事演習は行われているものの、米韓両国の不協和音はどの程度、深刻なのかが今回の訪韓で見えてきそうだ。

トランプ大統領のDMZを電撃訪問はあるのか

DMZにある板門店はまさに朝鮮半島停戦のシンボルで米韓同盟の原点ともいえる場所。訪韓した米歴代大統領のほとんどが訪れてきた。ところが、今回のトランプ氏のDMZ訪問は未定で、現状では在韓米軍司令部のある平沢米軍基地を訪問する予定だ。

米ホワイトハウスは「文在寅大統領がわれわれをキャンプ・ハンフリーズ(平沢米軍基地)に招待した」と述べるにとどめ、DMZ訪問を明言していない。

「DMZ訪問は金正恩氏を刺激する」と韓国がことさらに懸念しているためで、韓国政府は「慰留したことはないし、慰留する理由もない。そもそもトランプ大統領のスケジュールは米国が決める」(青瓦台=韓国大統領府)と関与を否定しているが、複数の日韓メディアが「韓国の慰留」を報道している。

米政府は今回のアジア歴訪を「北朝鮮に圧力をかけるツアー」と位置づけた。

DMZ訪問に関しては「大統領の安全最優先」の観点から米国務省内に慎重論があったのも事実だ。だが、これに輪をかけたのが韓国政府だった。

「文政権の幹部がトランプ大統領のDMZ訪問に反対した。文政権は北朝鮮に誤解され軍事衝突を招く可能性があることや金融市場への打撃、平昌冬季五輪への支障が出ることを恐れている」(米紙ワシントン・ポスト)というわけだ。

ただ、訪韓した米最高指揮官が最前線を訪問しないとなれば米国のメンツに関わる事態だけに、電撃訪問する可能性も十分にある。レーガン、クリントン、ブッシュ、オバマ歴代大統領がDMZを訪問してきた。

米大統領は板門店の歩哨らを励まし、「われわれは『自由の最前線』に立っている」(レーガン大統領)と演説。最前線で米韓の結束をアピールしてきた。

今回、朝鮮半島危機に際して訪韓した米大統領がDMZ訪問を避けたとなれば、北朝鮮に米韓不仲を告げるメッセージになりかねないだけに、米国では「行かないほうが、より危険なシグナルだ」との憂慮する声も強まっている。

ケミストリー(相性)が合わない

米韓不仲を象徴する人物が文在寅大統領の大統領特別補佐(統一・外交・安全保障担当)を務める文正仁氏だ。

文正仁氏は7月の米韓首脳会談直前に米ワシントンでの講演で「北朝鮮が核凍結すれば米韓合同軍事演習の縮小もできるというのが文大統領の考え」などと述べ、韓国政府が火消しに躍起になった。

最近でも9月末、国内のシンポジウムで「米韓同盟が崩壊しても戦争だけはやってはならない」「北朝鮮の核保有を認めるべきだとの主張に賛同する」と発言し、米韓関係に亀裂を生む原因を作っている。

文正仁氏は盧武鉉元政権でも政府を代弁してきた親北融和派の国際政治学者だが、韓国の青瓦台は「大統領特別補佐」の発言を放任してきた。

また、韓国政府は対北政策で米政府の要請を受け入れていない。米国は関係国に対北独自制裁を要請してきたが、文政権は度重なる米政府の催促にもかかわらず先送りにしている。独自制裁はこれまで、日本、欧州連合(EU)などが発表している。

そもそも文政権は、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題で、結論を先送りしたうえで検証や環境調査を持ち出すなど、さんざん延滞させてトランプ大統領を憤慨させた。

結局、7月末の「火星14号」(大陸間弾道ミサイル)発射成功で、THAAD配備をようやく決めたが、トランプ大統領はツイッターに「韓国はようやく北朝鮮に対する融和的発言が効果のないことを理解しつつある」と皮肉たっぷりに書いたほどだ。

http://www.sankei.com/world/news/171029/wor1710290001-n1.html

>>2以降に続く)