開催まで100日を切った平昌(ピョンチャン)五輪。だが、開催国の韓国は金正恩氏と舌戦を繰り広げるトランプリスク、北朝鮮のミサイルなど問題が山積み。世論も盛り上がらず、見かねたIOCが北朝鮮に五輪参加費をタダにすると提案したのだが……。ノンフィクションライター・菅野朋子氏がその実情をレポートする。

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 トランプリスク──。

 トランプ米大統領の11月7日の初訪韓を前に、韓国ではこんな言葉がさかんに聞かれた。

 韓国にとってのトランプリスクは、米韓FTAなどの経済面もあるが、なんといっても北朝鮮の核問題を巡るトランプ米大統領の対応だ。

 北朝鮮の核実験と相次ぐミサイル発射実験はそのものが脅威だが、さらにそれを増幅させているのが、トランプ米大統領の一貫性のない過激な発言と態度だと言われている。韓国の全国紙記者が言う。

「大統領選挙中は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長とハンバーガーを食べながら会談したいと言っていた。それが、北朝鮮の度重なる挑発に、武力攻撃を示唆するような強硬発言を繰り返し、金委員長とチキンレースを繰り広げている。

 一貫した政策も感じられない、独断的な発言には、危機を煽って朝鮮半島を弄(もてあそ)んでいるのではないかという声もあがっています。今回の訪韓でもどんな発言をするのか、韓国は戦々恐々としています。なかでも、今、そんなトランプリスクの影響をもっとも恐れているのが、開催まで100日を切った平昌冬季オリンピックです」

 平昌オリンピックについては、北朝鮮の脅威が取り沙汰されていた。

 北朝鮮の核実験により国際社会に緊張が高まった9月には、IOCの幹部が「(平昌)オリンピックをボイコットする国が出てくるのではないか」と懸念を表明。すると、ほどなくして、フランスのローラ・フレセル・スポーツ相が、「状況次第では平昌オリンピック参加を見送る」と発言し、これに欧州の各国が同調するような動きをみせて、韓国は騒然となった。

文在寅(ムンジェイン)大統領はすぐに、トーマス・バッハIOC会長と「緊密な連携をとっている」と発表し、オリンピック開催への懸念を払拭することに追われた。

 結局、フランスは不参加発言を撤回し、11月1日現在、平昌オリンピックへの参加申し込みは史上最多の92カ国・地域が登録したと伝えられた。

 しかし、これも北朝鮮と米国の動きでどう変わるかわからない。

 さらに悩ましいのは、韓国内でさっぱり盛り上がらないことだ。

 9月に文化体育観光部が行った世論調査では、「平昌オリンピックに関心がある」と答えた人は39.9%。こうした関心の低さは入場券の売れ行きにも表れていて、10月30日現在の販売率は31.8%と寂しい状態なのだ。

「それもこれも崔順実(チェスンシル)事件のせい」と話すのは平昌オリンピックの開・閉会式が行われる地元、大関嶺面(テグァンリョンミョン)の不動産業者だ。

 崔順実事件とは、昨年10月に発覚し、大騒ぎになった朴槿恵(パククネ)前大統領の友人、崔順実氏による国政介入事件のことだ。

「崔順実事件で、予算に支障が生じたとか理由をつけられて村内の整備工事も9月に入ってようやく始まりました。あの事件から、平昌オリンピックというと『利権』といった冷たい視線がとんできて、イメージががくんと下がった。みんな関心がない。あの事件さえなかったらと思わずにはいられませんよ」

 崔氏は、朴前大統領を後ろ盾に財閥企業などへ賄賂を強要したとされ、現在、斡旋収賄罪などの疑いで裁判中だ。

 そして、一連の疑惑の中には平昌オリンピックの建設利権も含まれていた。前出記者はこう言う。

「崔氏が平昌オリンピックの利権に関わった疑惑は明らかにされていませんが、この一件を巡っては、2人目のオリンピック組織委員長・趙亮鎬(チョヤンホ)氏が辞任に追い込まれました。

 趙氏は、韓進(ハンジン)グループ会長で経営に専念するといって委員長職を辞任しましたが、崔氏が推薦した建設業者の入札を断ったため、崔氏に疎まれて辞めさせられたといわれています」


続きます。
2017.11.8 11:30 AERA
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