https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20180228-00082131/

 国際ニュースでみない日はないほど、イスラーム過激派によるテロ活動はもはや日常になった感さえあります。しかし、欧米諸国ではここにきて新たな脅威が台頭しており、しかもそれは内側から沸き起こってくるものです。

 2月27日、英国警察のテロ対策責任者だったマーク・ロウリー氏は「世界中がイスラーム主義者と右翼の過激主義とテロリズムという共通する課題に直面している。しかし、英国よりこれにうまく対応できている国はないと思う」と発言。英国のテロ対策が他国のそれより優れているかどうかはさておき、「白人右翼テロ」が新たな脅威として、欧米諸国で広がりつつあることは確かです。

米国での白人右翼テロ

 白人右翼によるテロへの警戒は、英国以外の国でも広がりをみせています。

 2017年6月、米国の調査機関インベスティゲイティヴ・ファンドは2008年から2016年までのデータから、米国ではイスラーム過激派によるものより、白人右翼によるテロの方が頻繁に発生し、多くの犠牲者を出していると報告。この調査によると、

イスラーム過激派による事件は63件、そのうち76パーセントは未然に防止された。
白人右翼による事件は115件、そのうち35パーセントが未然に防止された。
死者を出した事件は、イスラーム過激派による事件のうち約13パーセントで、総死者数は90人。
これに対して、白人右翼による事件のうち約三分の一で死者が出ており、総数は79人。

 ここから、発生の頻度で比較すれば、トランプ氏が「イスラーム過激派によるテロ」を強調して大統領選挙で勝利した米国では、ムスリムによるものより白人によるテロの方が多く発生していることが分かります。さらに、死者の総数で比較すればイスラーム過激派の方が多いものの、この多くは2009年のテキサス州での乱射事件によるもので、白人右翼による事件の方が銃器の使用頻度が高く、より頻繁に死者を出しています。そのうえ、未然に防止された割合から分かるように、当局はムスリムと比べて白人への警戒・監視に熱心だったとはいえません。

「ヘイトクライム」とテロリズム

中略

日本にとっての試金石

 その意味で、日本も決して無縁ではありません。

 例えば、日本の警察庁の統計では「外国人による犯罪のデータ」は明示されていますが、「外国人が被害者である犯罪のデータ」は示されていません。そこには「外から来る連中は警戒すべきだが、日本人が外国人に危害を加えることはない」という思い込みがあるようにみえますが、それこそドイツのシンポジウムでビニンガー議員が述べた「因習的な発想」ではないでしょうか。

 戦後の日本でも、オウム真理教による一連の事件や、革マル派など左翼過激派によるテロだけでなく、右翼によるテロもありました。自民党の金丸信議員への銃撃(1992)、民主党の石井紘基議員の刺殺(2002)、そして2月23日に発生した朝鮮総連本部への銃撃などは、その代表です。

 このうち、特に総連本部銃撃事件に関しては、いかに外交レベルで北朝鮮と対立しているとしても、テロ行為を容認してはいけないはずですが、そこに対する批判は必ずしも多くありません。ここに、移民やムスリムへの反感を背景に欧米諸国で白人右翼テロが静かに広がったのと同じ社会状況を見出すことができます。

 しかし、先述のように、少なくとも欧米諸国では自浄作用もみられます。したがって、右翼テロへの対応は、日本が自由と法の支配を重視する国として一人前なのか否かの試金石になるといえるでしょう。