フィリピンの首都マニラに昨年12月に設置された慰安婦を象徴するという女性像について、日本側が公的な場所に突如設置された経緯をフィリピン政府に問い合わせ中だが、関係機関は責任を互いになすり付け合っている。通行人や観光客らが足を止めて「慰安婦像」に見入るなどすっかり現地の風景に溶け込んでおり、撤去などの早急な対応が求められている。

 「マニラ市は場所を提供しただけ。設置申請してきた華人財団には、関係機関から必要な許可を得るように言った」。同市のアルコベダンス行政官は産経新聞の取材にこう述べた。さらに「許可を出した国家歴史委員会が、上部組織である大統領府に報告と確認を怠った」とも指摘した。

 同行政官は、昨年12月8日の像の除幕式にエストラーダ市長の代理として出席。除幕式には日本側関係者が見当たらず、歴史委にはその場で大統領府への報告を確認したところ「必要だったのか?」と返答されたという。

 一方、北米などでも設置され外交問題化している慰安婦像を扱いながら、歴史委の女性委員は「善意で行っただけ。歴史家の意見も聞いたので大丈夫だと思った」と述べた。女性委員は「外交的配慮の認識に欠けていた」と責任を認めながらも、設置の取り消しは「マニラ市が決めることだ」と、さらなる関与を避けた。

 フィリピンを訪問した野田聖子総務相は1月9日、ドゥテルテ大統領と会談した際に「こうした像が唐突にできるのは残念だ」と伝え、「理解してもらったと受け止めている」とした。

 しかし、ドゥテルテ氏はオンラインメディアとのインタビューで、野田氏に「元慰安婦やその家族には憲法で守られた表現の自由がある」と応じたと説明。また、日本側から撤去の要請はなかったとした。

 カエタノ外相は1月12日の会見で、「慰安婦像」の設置経緯を調査する省庁横断チームを発足させたと説明。像設置の助言役だったテレシタ・アンシー氏は、「撤去されれば、国内の旧日本兵の慰霊碑も同じく撤去するよう外務省に手紙を出す」と牽制(けんせい)する。

 在フィリピン日本大使館は「像設置の経緯は各レベルで問い合わせを続けている」とした。(マニラ 吉村英輝)