【5月30日 AFP】かつて手りゅう弾のみで敵の機銃陣地に果敢に飛び込み、
国からたたえられたことのある韓国の退役軍人チェ・ドクㇲ(Choi Deuk-soo)さん(91)は、
米朝首脳会談が万一、実現しなかった場合、危機にさらされるものは何かを身をもって知っている。
チェさんは会談の開催にも懐疑的だ。

 チェさんは、朝鮮戦争(Korean War、1950〜53年)の最終局面で
敵陣に英雄的な決死の攻撃を仕掛けた功績を評価され、韓国の最高勲格となる「太極武功勲章」が授与された。
存命の受領者は5人しかおらず、チェさんはそのうちの一人だ。

「私は、どんな戦争も大嫌いだ」。
チェさんは、韓国の首都ソウル近郊の仁川(Incheon)にあるアパートでAFPに話した。
取材では、戦地で数時間も重機関銃を発射し続けたせいで、耳が聞こえにくくなっていることも明らかにした。

 取材は、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が米朝首脳会談の今後の実現に含みを持たせつつも
中止を発表する前に行われた。チェさんは、ここ最近の急激な緊張緩和には懐疑的な見方を持っているという。

 トランプ氏は24日に突如、北朝鮮の「あからさまな敵意」を理由に、
6月12日にシンガポールで予定されていた金委員長との首脳会談を中止すると北朝鮮側に通告した。

 南北統一についてチェさんは、
「未来のどこかでまた戦争をする必要があるのかもしれない…それが数百年後になったとしても」と持論を述べる。

 また、「(北朝鮮朝鮮労働党委員長の)金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)の約束が長続きするとは思えない。
北朝鮮は物質的な見返りにしか興味を持ってないからだ」と話し、
北朝鮮政府が核兵器開発の放棄に取り組み、本気で和平を実現したいと願っているかは疑問だと続けた。

 チェさんがこれほどまで冷ややかなのには理由がある、朝鮮戦争で過酷な体験をした上に、
過去数十年での和平交渉はことごとく失敗に終わり、北朝鮮政権の盤石さは揺るがず、
核保有国への道を突き進んできたのをその目で見てきたからだ。

■「遺体からライフル奪えばいい」

 取材中、ぜんそくの薬が入っている吸入器を何度か使いながら、
チェさんは朝鮮半島で最後に勃発した全面戦争での恐ろしい体験を振り返った。
チェさんの頭を今も離れない記憶の多くは、第一等勲章につながる攻撃を行ったあの夜のことだという。

 1953年6月30日。チェさんの部隊は中国人の義勇軍から938高地を奪還するよう命じられた。
所属していた大隊の人数は500人からわずか30人にまで減っていた。

「司令官にたばこを手渡され『前進あるのみ。退却するな』と言われた。
仲間が機関銃1丁を設置し、退却するそぶりを見せれば撃つぞと脅された」

 チェさんらは、少しでも身軽になるためにヘルメットを脱ぐよう指示され、手りゅう弾だけを渡されたという。
指揮官らに、ライフル銃が必要になれば、丘の中腹に無数に散らばっている遺体からいつでも奪えばいいと告げられ、
チェさんらは闇と煙幕に紛れながら、敵陣に向かって少しずつ前進した。

「敵側の機銃陣地によじ登っては手りゅう弾を次々投げ込み、最後の2発で三つ目の機銃陣地の砲撃を沈黙させた」

 敵側の陣地が静まり、援軍の突撃で、1時間に及ぶ戦闘には決着がついた。
チェさんはどうにか無傷で危地を脱した。だが、もともと30人いた部隊は一晩でわずか5人になっていた。

 1か月後、休戦協定が締結されたが、厳密には朝鮮半島の2国ははまだ戦争状態にある。

画像:退役軍人のチェ・ドクスさん
https://img.topics.smt.news.goo.ne.jp/picture/afpbb/m_afpbb-3176528.jpg

AFP
http://www.afpbb.com/articles/-/3176528?pid=20171052
続く)