「問題の地域がある」−。川崎市幹部の一人が、市政記者クラブの一室を訪れ、その場にいた複数の記者を前にそんな話を切り出したのは昨年の晩春、今から1年半以上前のことだ。問題の地域とは、市臨海部にある池上町(川崎区)の北側一帯のことを指す。民有地で貸借契約もないまま多くの人が居住している。違法建築が横行する現地の状況に危機感を覚えた幹部が「惨状」を訴えたのだ。

 記者にそれを伝えることが、何を意味するのか。「記事に取り上げてほしい」「問題を俎上(そじょう)に載せ、解決への取り組みを前進させたい」。口には出さなかったが、そうしたメッセージを含んでいるのは明らかだった。

 ◆防災・防犯切り口に

 ただ長い間、記事として取り上げることができなかった。土地所有者のJFEスチール(本社・東京)が消極的▽問題を取り上げる切り口が見つからない▽住民の生活権に関わる部分がある−などがその理由だ。煮え切らない思いで日々を過ごし、今冬になってようやく「防災・防犯」を切り口に、行政側の視点で記事化した。

 池上町は大部分がJFEスチールの敷地だ。その一角に200軒以上の家屋や店舗、事業所が密集している。別の市幹部が「国内最大級の不法占拠地帯だ」と指摘するように、居住者のほとんどが同社との間で貸借契約などを結んでいない。同社は土地の固定資産税を支払い、居住者を「不法占拠」と認識している。

 ただ、同社側は「提訴すれば勝てるだろうが、長く住んでいる人たちに立ち退きなど求められない」という“配慮”を口にする。その上で「空き地になった部分は少しずつ取り戻している」と説明する。ただし、空き地になるのはレアケースのため、解決に「何十年かかるか分からないが」と付け加えている。

 ◆放置される危機

 現地は防火施設の整備もままならず、未区画の細道には消防車も入り込めない。近年は老朽化して放棄された家屋が目立つ。

 外国人など新住民も流入し、治安悪化、住民の高齢化などの問題が顕在化し始めている。同社の住民への“配慮”が、環境悪化を助長し、暮らしの安心・安全を阻害しているのだ。そんな目前の危機を、同社はあと何十年も放置するつもりなのだろうか。

 市側は「一度(ひとたび)火が出たら、大惨事になる」と認識している一方で、「民有地なので不法占拠問題には口出しできない」というジレンマを抱えている。こうした状況に業を煮やした市が、防災・防犯の観点で池上町への積極関与に乗り出し、関係各者との連絡会を結成したのは平成26年のことだ。

 27年の日進町(川崎区)の簡易宿泊所火災を受けて防火体制強化を進める市にとって、池上町は早急に解決したい目の上のこぶ。28年には、警察や消防、住民、地権者の各代表による第1回協議会を開催している。冒頭の市幹部の“リーク”は、世論喚起と同時に、悠長な姿勢を示し続けるJFEスチールにハッパを掛けたいという思いからにほかならない。

 6月の米朝首脳会談など、朝鮮半島がらみの取材で、池上町だけでなく、市内のコリアンタウンや桜本地区など多くの在日朝鮮人・韓国人が住む地域を何度も訪れた。住人と話すたびに、ネット上にあふれる偏見や誹謗(ひぼう)・中傷が、いかに根も葉もないものが多いかを感じた。

続く。 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181224-00000021-san-l14
12/25(火) 7:55配信

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