文在寅政権の教科書修正に米国から警告の声

韓国の文在寅政権は自国の教科書を書き換え、北朝鮮の人権弾圧や朝鮮戦争における韓国への侵攻を矮小化しようとしている。

 そうした“歴史修正”に対して、米国ワシントンの大手研究機関から新たな警告が発せられた。文政権の動きは、北朝鮮の残虐行為から韓国の若者の目を背けさせようとする洗脳教育に等しいと断じる非難である。この反応は、現在、米国官民に広がる韓国の文政権や米韓同盟への不信の表れといえるだろう。

北朝鮮の現実を無視する文政権

 2019年1月冒頭、ワシントンの民間主要研究所であるAEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート)関係者は、同研究所が韓国・文政権の歴史などの教科書内容の修正に批判的な見解を強め、この問題を米韓関係全体や米韓同盟のあり方ともからめて研究対象にしていくという方針を明らかにした。

研究所の関係者によると、この方針は、国際安全保障や外交問題を専門とするAEIの研究員、マイケル・ルービン氏が発表した論文が出発点になっているという。ルービン氏は第2代ブッシュ政権で国防総省などの高官を務めた外交・戦略の専門家で、中東からアジアまでの広い地域を研究対象としてきた。

 2018年6月、「朝鮮日報」(6月22日付)は、前日の21日に韓国教育部(省)が発表した新教育課程の改正案を詳しく報じた。ルービン氏はその内容を根拠として、10月に、文在寅政権の教育政策に関する論文を発表した。論文には「韓国政府は自国生徒に北朝鮮の残虐な歴史を隠すための洗脳教育を意図している」という激しい糾弾のタイトルが付いていた。

同論文の骨子は以下のとおりである。

・韓国の有力新聞「朝鮮日報」などの報道によると、文在寅大統領は2020年から韓国の小、中、高校の教科書の内容を修正する。「韓国が韓半島(朝鮮半島)唯一の合法政府」という記述をなくし、「自由民主主義」の「自由」も消すという。

・この教科書修正では、北朝鮮の韓国領への軍事攻撃と侵略によって朝鮮戦争が始まったことや、北朝鮮政府が自国民を徹底して弾圧してきたことも曖昧にされるという。

・文政権の北朝鮮に対するこの宥和政策は、金大中政権から始まった北への「太陽政策」や、その後の廬武鉉政権の対北友好政策の延長と強化にあたるが、その種の政策がすべて失敗に終わってきた事実を無視している。

・文政権のこのような宥和政策は、北朝鮮の現実を無視した幻想、あるいは希望であり、韓国の若者たちに対する危険な洗脳教育である。そうした北朝鮮への認識は、文在寅大統領が米国のトランプ大統領やポンペオ国務長官に対して公式に述べている北朝鮮観とはまったく相反している。

・文政権が新しい教科書に盛り込もうとしている朝鮮戦争への認識は、侵略的な独裁国家である北朝鮮が韓国軍・米軍に戦争を仕掛け、合計250万もの犠牲者を出した歴史的事実を無視するに等しく、米国側の官民の認識とは正反対である。

 ルービン氏は以上のように激しい表現で文在寅政権の教科書修正を非難して、このままでは米国側の官民の朝鮮情勢に対する認識や価値観を否定することにつながる、と警告していた。

 北朝鮮への対応をめぐり、米国と韓国の間の食い違いがますます深まりつつある。今後、AEIが正面からこの韓国の教科書問題を取り上げた場合、米国において文在寅政権への批判は大きな広がりをみせると予想される。

(古森 義久:ジャーナリスト、産経新聞ワシントン駐在客員特派員)

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55147
JB 2019.1.9(水)

https://i.imgur.com/AK4t18n.jpg
朝鮮戦争で破壊された韓国・ソウル市内の建物(出所:Wikipedia)