「韓国は歴史を書き換えるので気をつけないといけない」。韓国の大学で歴史学を学んでいた日本人留学生から以前、聞いた話だ。

小倉紀蔵(おぐら・きぞう)京都大教授によれば、日本と韓国とでは歴史観がだいぶ違うという。小倉氏は「なぜ日本人は過去の糾弾をしないのかということを韓国人はよくいう。過去の糾弾というのは、儒教的な意味でいえば毀誉褒貶(きよほうへん)の『春秋の筆法』によって、どれが悪くて、どれが善かったという、必ず善悪の価値を付けて歴史を描くことをいう。そういう歴史観こそが文明だと思っている」(「心で知る、韓国」)と指摘する。

■歴史の「立て直し」

春秋の筆法という言葉は、中国の孔子の編集による歴史書『春秋』に由来する。韓国でよく耳にする言葉に「ヨクサ パロ セウギ」というのがあるが、直訳すると「歴史の立て直し」だ。韓国版「春秋の筆法」といえるかもしれない。埋もれた真実を探り出すという側面もあるが、政権が代わると自分たちの都合のいいように歴史を書き換えるという面もある。

「歴史の立て直し」は日本人にはなかなか理解しづらいが、それ以上に驚かされるのが、過去に日韓間で結ばれた合意や協定が事実上“反故”にされることだ。慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意に基づき設立された「和解・癒やし財団」の解散問題やいわゆる徴用工訴訟の最高裁判決がそれだ。

「約束を守ることが正しい」とする日本人には到底許されない。だが、くだんの知人によれば、韓国人は約束を守ることよりも、その約束が韓国語でいう「オルバルダ(正しい)」かを重視する。韓国人は、この「オルバルダ」を基準に歴史もみているという。

ソウル在住の通訳者に聞いたところ、「オルバルダ」は「道徳的に正しい」「人間として正しい」といったニュアンスがあるという。

韓国人にとって、朝鮮半島の統治をはじめ元慰安婦や元徴用工の問題は「日本が人間として正しくないことをした」ために起きたということが大前提にある。

そこに「歴史の立て直し」が加わり、韓国には1910年に締結された日韓併合条約も、65年に結ばれた日韓基本条約も「無効」という考え方がある。

■知日派の嘆き「出番ない」

さらに韓国では法そのものに対する考え方が、日本人の常識とはずれている。韓国の場合、法を遡及して適用されることがよくある。他の法治国家ではあまりみられないことだ。

韓国では実際、新たに制定された法律により、2人の大統領経験者が過去の事件で投獄されている。80年5月に韓国南西部の光州で、軍が民主化を求める学生らを武力鎮圧した責任者を処罰するため、95年に「5・18民主化運動などに関する特例法」が制定された。同法により、全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)両元大統領が逮捕された。これも当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権下で行われた「歴史の立て直し」の一環だ。

こうした韓国の持つ特殊性から、韓国ソウル市立大学の鄭在貞(チョン・ジェジョン)名誉教授は今後の日韓関係に悲観的だ。

「日韓関係はこれまで65年体制の中で対話によって解決が図られてきた。しかし、昨年10月に徴用工訴訟をめぐる最高裁判決が出て以降、法廷闘争の様相を呈している現在、われわれ(知日派)の出番はなく、ただ見守るしかない」

2019.1.20 01:00
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