安倍晋三首相は1月28日の施政方針演説で、対韓関係について一言も触れなかった。「いわゆる徴用工をめぐる韓国最高裁の確定判決や、火器管制レーダー照射問題など韓国側の動きが原因」(29日付産経新聞朝刊)というわけだが、この「韓国無視」政策は韓国経済の泣きどころを突きそうだ。

苦笑させられたのは、安倍演説の前の25日付の韓国紙、中央日報(日本語電子版)の社説である。「一触即発危機の韓日関係、速やかな鎮火を」と題し、まずはレーダー照射問題で「先に日本の責任を問わざるをえない」と一方的にまくし立て、「安倍内閣は局面転換のために外交を内政に悪用したという批判を受けて当然だ」と対日批判を展開した。

ところがそのあとの段落でずっこける。「われわれ韓国側の外交対応にも問題が多い」と一転したあとは、「韓日葛藤が激しくなるほど損害が大きくなるのはわれわれのほうだ」と、珍しく自虐調である。

懸念の種として、北朝鮮の脅威に対する日米韓の軍事協力の足並みの乱れを挙げたのは方便か。注目すべきはそのあとのくだりで、「下降傾向の経済成長率と不安定な金融環境を見ても日本の対韓投資と通貨スワップ再開は必須だ」と、まるで他人事のような言い方で、日韓通貨スワップ協定の再開の必要性を説いている。

米朝関係の好転をみて韓国内の対北融和ムードが広がっている中では、前者の問題は実のところ、切実感に乏しいのだろうが、金融不安は韓国経済の足元を崩しつつある。金融危機に対処するためには、日本からの通貨供給しかないという現実を自覚しつつも、日本に対して頭を下げて乞うことを嫌う韓国のジレンマを象徴している。

韓国の金融市場はどうなっているのか。グラフは韓国の株価と、外国からの対韓ポートフォリオ投資(株式を中心とする資産運用目的の投資)の最近の推移である。韓国経済は外資依存度が高い。韓国の対外金融負債は昨年9月末で1兆1871億ドルだが、そのうち海外からのポートフォリオ投資が62%を占める。

アジア通貨危機にもみくちゃにされた1997〜98年当時の同比率は約3割で、5割以上が外国からの銀行ローンだった。外銀が一斉に融資を引き上げたために外貨が払底し、経済が破綻した。今度は海外投資家が韓国株を一斉に売却し出すと、アジア通貨の悪夢再来となる。

ポートフォリオ投資はグラフが物語るように株価に連動する。韓国総合株価指数は昨年後半から急落傾向にある。韓国経済は対中貿易依存度が高く、中国の経済減速と米中貿易戦争の影響をモロに受ける。3月1日を期限とする米中貿易交渉が行き詰まれば、韓国株の下落に拍車がかかる恐れは十分ある。

昨年9月末、韓国の外貨準備は4000億ドル強だが、7400億ドル超のポートフォリオ投資よりはるかに少なく、外貨危機に陥りかねない。そのときも、「日本の責任だ」と騒ぎ立て、日本に対し、円やドルの緊急融通を迫るつもりなのだろうか。


(産経新聞特別記者・田村秀男) 2019.2.1
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