中国人の「爆買い」に異変が起きている。日本で商品を大量購入し、中国で転売してきた業者の動きがパタリと止まってしまったためだ。好業績を謳歌(おうか)してきた日本の化粧品メーカーや日用品メーカーに、少しずつ「中国リスク」が忍び寄りつつある。

 ■インバウンドは好調だが…

 「1月は(高価格帯の)プレステージ系の中国での店頭販売が、前年同月比で40%も伸びた。われわれは減速感を感じていない」

 資生堂が2月8日に開いた平成30年12月期の決算会見。魚谷雅彦社長は中国経済減速の影響をきっぱり否定した。中国人をはじめとするインバウンド(訪日外国人)の消費にも衰えはみられないという。

 同社の30年12月期は、本業のもうけを示す連結営業利益が前期比34・7%増の1083億円と、初めて1000億円を超えた。中国売上高が実に32%も増加。インバウンド(訪日外国人)向けを含む日本の売上高も9%伸びた。インバウンドに限れば、20%以上の伸長だったという。

 中国人の消費意欲が衰えていないことは、2月4日に始まった春節(旧正月)商戦からもうかがえた。東京・銀座へ足を運ぶと、百貨店の化粧品売り場や化粧品大手の直営店は、中国人観光客であふれていた。少なくとも表面上は、ここ数年と何ら変わっていないように見える。

 ■EC法成立で変化

 もっとも、一部では中国向けの苦戦が形となって表れ始めている。

 2月4日に決算を発表した花王の場合、苦戦は化粧品より子供用紙おむつ「メリーズ」で目立った。30年12月期の連結営業利益は前期比1・4%増の2077億円と、6年連続で過去最高を更新した。だがメリーズの販売が低迷したため、期初計画(2150億円)には届かず、紙おむつなどのヒューマンヘルスケア事業は減益となった。

 「厳しい1年だった」 過去最高を更新したにもかかわらず、会見での沢田道隆社長には後ろ向きなコメントが目立った。

 メリーズが苦戦し始めたのは、昨年夏に中国で、ネット通販事業者に登録や納税を義務づける電子商取引(EC)法が成立したからだ。転売業者は、日本で買った商品が中国で売りにくくなると危惧。日本での爆買いを控え、中国のストックを安く売り出した。そのあおりを食って、正規ルートで販売されている商品まで売れ行きが鈍った。

 花王ほどではないが、資生堂の化粧品も影響を受けている。1月は業者の購入が前年同月比で10〜20%減り、減少傾向は当分続く見通しという。

 ただし、インバウンドの約8割を占める一般旅行者向けの売上高は、逆に約1割伸びたという。たとえ爆買いがなくなっても、中国の消費者が正規の商品に移行すれば、メーカーはビジネスをコントロールしやすくなる。

 ■乱立するおむつメーカー

 もっとも、別の日用品メーカー関係者は「中国人の消費姿勢は明らかに変化しつつある」と指摘する。優れているからといって、値段に関係なく手を出す時代は終わりを告げつつある、との意味だ。

 しかも、中国では現地メーカーの台頭が著しい。紙おむつでは数百ものメーカーが乱立し、花王によるとそれらの合計シェアは約45%に達するという。

 「以前は『おむつのエルメス』といわれてきたが、最近はそこまでいわれなくなった。メード・イン・ジャパンへの評価は揺らいでいないが、日本製でなければならないかというと、少しずつそうではなくなっている」。花王の沢田社長は危機感を隠さない。

 花王は今後、最新技術を中国発の商品にも取り入れるほか、ワンブランドに固執せず、ラインアップを増やすことも検討していくという。資生堂は「昨年10〜12月にマーケティング投資を増やし、ほぼ中国へ振り向けた」と明かす。

 日用品や化粧品は「必需品」で、経済減速の影響が及びにくい。とはいえ、及ばないという保証もない。これまでのような「わが世の春」とはいかなくなりつつあるのは確かだろう。(経済本部 井田通人)

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2/21(木) 10:01配信 産経新聞提供