【マニラ=遠藤淳】フィリピンは17日、国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ、ICC)から脱退した。強引な手法から多数の死者が出ている薬物犯罪捜査を巡り、ICCが予備調査に乗り出したことにドゥテルテ大統領が反発し、1年前に脱退を通知していた。同氏は犯罪捜査の手法を見直さない姿勢で、国際的な批判が高まりそうだ。

ICCは集団殺害犯罪、戦争犯罪など個人の犯罪を国際法に基づいて訴追、処罰するために設置された常設の裁判所で、120を超える国が加盟している。脱退したのは、2017年10月のアフリカ中部ブルンジに次いでフィリピンが2カ国目となった。

フィリピンが脱退を決めたのは、ICCがドゥテルテ氏の予備調査を始めると表明したことがきっかけだ。ドゥテルテ政権は16年の発足後、違法薬物の一掃を掲げて強引な取り締まりを実施。多くの容疑者らが警察や自警団に超法規的に殺害されたと指摘されている。

ICCはこうした事例が「人道に対する罪」にあたるとの告発を受け、18年2月に予備調査を開始。これにドゥテルテ氏が強く反発した。警察はこれまでの捜査で抵抗されたことなどを理由に5千人超を殺害したとしている。

ICC脱退に対し、国内の一部からは非難の声が上がった。反ドゥテルテ派のデリマ上院議員は14日「ICCから逃げずに向き合うべきだ」とする声明を発表。フィリピン人権委員会は16日、「国際的な責務に従うという国の方針に逆行し、国民が国際法で守られなくなる」と批判した。

ただ、ドゥテルテ氏には薬物捜査の手を緩める気はない。14日、捜査当局の情報に基づき、違法薬物への関与を認定した政治家46人のリストを公表した。リスト公表は3回目で、会見で「まだ死んでいないのか」などと言いながら、一人ひとりの名前を読み上げた。名指しされた政治家は地元メディアに関与を否定した。

ICCは18年12月に発表した予備調査対象国に関する報告書で、フィリピンについて「巻き込まれた人も含めて、"薬物戦争"で1万2千人以上が殺されたとされる」と指摘した。ICCはフィリピンの脱退後も予備調査を続ける方針だ。

治安向上につながったとして強引な薬物捜査を支持する市民も多いが、捜査に巻き込まれて死亡した子供らの親族は政府への批判を強めている。15日には首都マニラの教会で追悼集会が開かれ、遺族はICCによる正式な捜査や訴追を求めた。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO4258034017032019FF8000/
日本経済新聞 2019/3/17 15:51

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強引な薬物捜査を続ける意向を示すフィリピンのドゥテルテ大統領(2018年12月)=ロイター