慰安婦問題における日韓合意の拒否や徴用工問題の訴訟など、近年、再び悪化の一途をたどる日韓関係。
6月に大阪で開催されるG20サミットでも日韓首脳会談の開催は白紙状態だ。
両国の関係修復が進まない理由を香港メディアは「韓国は日本に対して特別な感情」があると分析する。


日韓関係の修復が難しい理由

「集団的記憶は我が国の外交政策に直接、影響を与えています。歴史があまりにも政治に深く関わりすぎているのです」と、
韓国の保守系シンクタンク「アサン政策研究所」のハム・チャイ・ボン所長は言う。

彼によれば、1950年代の韓国の思想的な2本柱は「反共産主義」と「反日ナショナリズム」だった。
「冷戦の真っ最中に、この2つの思想はとてもよく機能しましたが、冷戦が終わるとすぐに反共産主義というアイデンティティがなくなりました」とハム。
そして反日ナショナリズムだけが残った。

日韓が和解したのは、冷戦が最高潮に達した時期だった。1965年、この2つの資本主義国は外交関係を正常化し、日本は韓国に対し長期の低金利融資を表明。
戦後賠償金も支払った。これらの資金は韓国の「経済的奇跡」の資本となった。

だが、和解は簡単には進まなかった。韓国の当時の大統領、朴正煕はクーデターで権力を掌握した独裁的なリーダーで、若い頃は日本陸軍にいた。
今日、多くの韓国人、特に若者層は朴正煕に批判的だ。朴に対する国民の感情をハムは次のように説明する。

「韓国の人々は1965年の日韓国交正常化を、歴史の克服ではなく民族主義感情に反した政治家のプラグマティズムと見ています。
朴大領領は『ナショナリズムは忌まわしいものだ。それより自国の経済を活性化しなければならない』と言いました。
それは賢明な判断でしたが、ナショナリストは強く反発しています」

一方で「反日ナショナリズムは、非常に選択的で集団的な記憶だ」とハンは指摘する。

1950年代に起きた朝鮮戦争と比較してみよう。3年にわたるこの戦争は、35年間の日本の統治地時代よりも大きな破壊と犠牲を韓国にもたらした。
だが韓国は、当事国である北朝鮮や、戦争中に介入して朝鮮半島の分断を扇動した中国からの謝罪を感情的に求めてはいない。

日本の植民地支配を実際に経験した世代がいなくなるにつれ、現在の反日ナショナリズムを疑問視する政治家も減っている。
また、旧帝国主義国家のなかで日本は模範的な謝罪者でもある。何年にもわたり、天皇や閣僚が繰り返し謝罪の意を表明してきた。

にもかかわらず、ここ数十年、日韓関係は悪化の一途をたどっている。韓国人の多くは、日本の政治家が靖国神社に繰り返し参拝し、
日本の教科書が旧日本軍の残虐行為に十分に向き合っていないことにより、償いと悔恨が損なわれていると主張している。

また、韓国メディアや利益団体は、安倍首相の不誠実な謝罪を理由に、元慰安婦の一部が受け取った日本の官民補償金を拒絶し、
生存する元慰安婦の大部分が承諾した2015年の日韓合意を激しく非難した。文在寅政権は、慰安婦問題をめぐる日韓合意で定めた条件の順守を停止している。
また第2次大戦中、日本企業によって強制労働に従事させられた徴用工の問題に関しても日本に補償を要求する動きが活発化している。

これに対して日本側は、1965年の日韓請求権協定で解決済みと主張している。

韓国はいまや、日本の過去の侵略に対して最も頑なに声を上げる批判者になっている。
ドイツ大使としてかつて東京に赴任していたスタンツェルは「韓国以外のアジアのほとんどの国々は日本と和解済み」と話す。
ハムも他国の状況と韓国の違いに驚いたことがある。台湾に留学していたころ、台湾人は日本に対する敵意をほとんど持っていないことに気がついたのだ。

「私たち韓国人のように、すべてのアジア人が日本を憎んでいると思っていました」とハム。
2018年、フィリピン当局は「解決済み」の問題をめぐって日本との関係を損ねる必要はないと述べ、NGOがマニラ市に設置した慰安婦像を撤去した。
また2019年4月には日本の護衛艦が「旭日旗」を掲げて中国海軍の観艦式に参加しているが、韓国は近年、日本の船が旭日旗を掲げて観艦式に参加することを拒否している。

この動きには「行き過ぎ」との批判もある。それでも、ハムはわずかな望みを抱いている。個人レベルでは、韓国人は日本文化が好きだからだ。
彼は、2018年に韓国人の訪日観光客が700万人に達したこと、日本食や居酒屋式のパブが韓国の若者の間で現在大ブームになっていることをその理由に挙げた。
https://courrier.jp/news/archives/162791/