青森県沖で消息を絶った最新鋭ステルス戦闘機F35Aを巡り、航空自衛隊が事故調査の中間報告をまとめた。

 操縦士が機体の高度や姿勢を把握できなくなる「空間識失調」に陥り墜落した、と原因を推定している。「機体に異常が発生した可能性は極めて低い」とし、近く同型機の飛行を再開する。

 安倍晋三政権は「F35」を計147機配備する方針でいる。安全性への懸念とともに、専守防衛の日本に高性能の戦闘機が大量に必要なのか、改めて疑問が募る。

 空自三沢基地のF35Aが訓練中にレーダーから消えたのは4月9日午後7時26分ごろ。高度9600メートルから降下し始め、40秒ほどの間に時速1100キロ以上で海面に突っ込んだという。

 機密保全のため米軍が異例の態勢で捜索に加わったものの、機体はほとんど回収できず、飛行記録も見つかっていない。防衛省は今月3日に集中捜索を打ち切り、操縦士の死亡を認定した。

 米ロッキード・マーチンが開発主体のF35戦闘機は、レーダーで捉えにくいステルス性に優れるとされる。空軍用のA型、短距離離陸と垂直着陸ができる海兵隊用のB型、海軍用のC型がある。

 B型は昨年9月、米国南部で燃料管が破裂して墜落した。A型も日本国内での飛行で不具合を起こし、数回緊急着陸している。運用優先で、人命を失う事態を繰り返してはならない。

 既に採用が決まっているA型42機に加え、安倍政権は昨年12月、A型63機とB型42機の追加購入を閣議了解した。A型1機100億円超の買い物は、貿易交渉で米政権の輸入圧力をかわすためとの見方もある。

 海上自衛隊の護衛艦2隻を空母に改修し、B型を搭載する。これで、政府が保有できないとしてきた「攻撃型空母」ではないと言い張るのは詭弁(きべん)でしかない。

 北朝鮮は曲がりなりにも非核化交渉に臨んでいる。中国の軍事的台頭があるとはいえ、首相自身が国会で「日中関係は完全に正常に戻った」と述べている。

 なぜ、防衛費を増大させ続けなければならないのか。首相は国民に丁寧に説明してほしい。

 安全保障は外交の一環だ。ロシアとの北方領土交渉では、米国からの要請のままに法整備し、軍備を増強する日本の姿勢が最大の障壁になっている。

 首相のうたう「戦後外交の総決算」は、個々の政策が矛盾をきたしていることを自覚すべきだ。 

(6月11日)

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信濃毎日新聞