【マニラ=遠藤淳】南シナ海でフィリピンの漁船が中国の漁船に衝突されて沈没したことを受け、首都マニラの複数の場所で21日、中国に抗議するデモが行われた。参加者は「中国は南シナ海から出て行け」などと声を上げた。中国に融和的な外交を進めるドゥテルテ大統領は事態の沈静化を目指すが、批判の矛先は政府にも向いており、対応に苦慮しそうだ。

ビジネスの中心地のマカティ市で行われたデモには50人ほどが参加し、「中国船に法の裁きを」などと訴えた。漁師のピド・ゴンザレスさん(75)は「中国が南シナ海で軍事拠点を築いているのに政府は何もしていない」とドゥテルテ政権の対応を非難した。

漁船の衝突は9日に起きた。大統領府などによると、フィリピンの漁船が南シナ海のリードバンク周辺の海域で停泊していたところ、中国の漁船に衝突され沈没した。中国船は海に投げ出されたフィリピン人乗組員22人を救助せずに立ち去った。乗組員は付近のベトナム船に救助された。

政府が外交ルートを通じて抗議する一方、ドゥテルテ大統領は「衝突は単なる事故だった」と述べ、早期に事態を沈静化する思惑だった。だが、船長が帰国した際に「中国船は故意にぶつかってきた」と話したことから、中国や政府に対する批判の声が広がった。

在比中国大使館は14日、「中国船は7〜8隻のフィリピン船に突然囲まれ、避けようとしてぶつかった。船長は救助しようとしたが、怖くなり逃げた」とのコメントを出した。だが、一部の議員らから調査を求める声が上がり、ロクシン外相は21日、中国側が提案した合同調査を拒否し、独自に調べると表明した。

フィリピン外務省は、23日にタイ・バンコクで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で漁船衝突を議題として取り上げる可能性があるとしている。南シナ海での紛争回避に向け、中国との間で進める行動規範の策定を急ぐ必要があると訴えるもようだ。だが、国内では散発的なデモが続いており、政府批判が収まるかは不透明だ。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46448280S9A620C1NNE000/
日本経済新聞 2019/6/22 1:49

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中国船によるフィリピン漁船衝突に抗議する人々(21日、マニラ)