(前略)

しかし、趣味ではなく現実世界の話になれば、まるで別人のようになる。
北方領土のことを聞いたら、たいてい「一島も返すべきではない」「あの土地はわれわれの先祖が血を流して獲得したものだから、返還は先祖への侮辱である」「アニメは大好きだし、日本人とは仲良くしたいけど、なぜ彼らが私たちの領土を狙っているのか理解できない。仲良くしたらいいのに(女の子の場合)」「そんなに領土が欲しいなら、米軍基地を撤退させて空いた土地に住んだらいいじゃないか」「アメリカに支配されているくせに日本人はロシアに文句言うな!」「趣味と国家は別だ」「クリル諸島が欲しいなら、方法は簡単だ。日本列島がロシア領になればいい。それだったら日本人は皆ロシア国民になるので、いくらでもクリル諸島に住める」などである。
さらに歴史について聞くと、「日本人はヒトラーの味方だった」「日露戦争でロシアは日本に騙し討ちの攻撃を受けた。ソ連の対日参戦はそれに対する正当な報復だから、文句を言われる筋合いはない」「今の日本人は戦争に負けてから大人しくなったが、昔は残虐だった。731部隊で人体実験をやっていた。捕虜の首を切り、中国人の民間人を大量に殺していた」と言っている。

強調するが、以上の意見を述べたのは日本のアニメが好きな人たち、つまり最も親日のはずの層である。
ましてや、アニメに興味がない一般ロシア人の意識を想像することはさほど難しくないであろう。
当時、このような発言を聞いて筆者は驚いたが、よく考えれば、趣味はどうであれ、ロシア人はロシア人なのである。

ロシアにおいては日本が好きな人であっても嫌いな人であっても、昔の「日本が悪かった」ことと、「南クリル諸島に対する不当な領土的野心」を日本の欠点として取り上げている。
歴史に関しては、多少、日露関係史に詳しいロシア人であれば、1855年の下田条約(日露和親条約)でロシアは日露友好のためにそれまでロシア領であった南クリル諸島を善意で日本に譲った、と主張している。

さらに、一部の人は「北海道のアイヌはロシア王朝に朝貢をしており、それはロシア支配を認めていたことを意味する。
本来はロシア帝国が北海道を領有するはずだったが、ロシアは日本に配慮して侵攻しなかった」と主張している。

それこそがロシアが日本に対して友好的だったことの証しだ、とまで彼らは考えている。
そして「ロシア人の寛大さに対して、日本人はロシア皇太子を襲い、だまし討ちで日露戦争を吹っかけた。まったく恩知らずの民族だ」と思っているのだ。

さらに、天皇陛下について「ソ連のスターリン崇拝が批判されるが、日本だって皇帝崇拝があったではないか。
現在でも、一部の狂った民族主義者が日本の皇帝を崇拝している」と主張する人もいる(筆者からすれば、日本の国体の奥深さや皇室の尊さに対する理解をロシア人から期待することはもちろんできない。
だが、それでも世界最古の王朝と1代限りの独裁者を同列に考えるのは、無知や非礼の極みである)。

だからソ連による対日参戦は、ロシア人からすれば、先述した「ロシアに対する敵対行為への当然な報復」ということだ。
したがってロシアは正当に南千島を「取り戻した」のだ、という理屈になる。

本当に大事なことなので何度も繰り返し言うが、たとえ日本のことが好きなロシア人であっても、「昔の日本は悪かった」「北方領土は一島も返すべきではない」と考えている。
それだけではない。たとえ日本が好きなロシア人でも、「今の日本はアメリカに支配されている」と考えている。
彼らの頭の中では、アメリカが日本の民族主義者と結託し、存在しない北方領土問題を掻き立て、日露友好を妨害していることになっている。

基本的に、ロシア人の頭の中で友好とは「ロシアへの服従」を意味している。
ロシア人は他国のロシアへの服従は当たり前の自然状態だと考えているので、それに反発が起きることを想定していない。

したがって、反発が起きたときはそれを「敵対行為」と認識する。
ロシア人は、他の民族には独立意思があるということを理解できない。

だからこそ、ロシアへの服従に抵抗を示す民族がいることに対して驚くわけである。
日本人の皆さんにはなかなか理解できない感覚だろうが、ロシア人はそういう国民である。

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