97歳になった今も現役で書き続ける作家の瀬戸内寂聴さんは、愛を語り、平和を訴えています。2015年に始まった連載「寂聴 残された日々」を大阪本社で担当していた奈良総局の岡田匠記者が、寂聴さんから聞いた言葉やエピソードを紹介します。

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 戦争を知る世代の言葉は重い。まして、ペン1本で言葉を紡いできた作家のものなら、なおさら心に刺さる。
 大正、昭和、平成、令和を生きる瀬戸内寂聴さん(97)が戦争について語った言葉が印象深い。
 「お国のため、東洋平和のため、天皇陛下のため、いろいろと理屈をつけ、正しい戦争と教えられた。でも、戦争にいい戦争はない。すべて人殺しです」
 そして、こう続けた。
 「戦争に負け、正しい戦争と信じてきた自分の愚かさに気づいた。これからは自分の目で見て、耳で聞いて、心で感じたことだけを信じていくと決めた。これが私の戦後の革命でした」
 この言葉を聞いたのは2015年、安倍政権が安全保障法制の成立をめざしたころ。国会前で抗議のデモが繰り広げられていた。京都から車いすで駆けつけた寂聴さんは「すぐ後ろに軍靴(ぐんか)の音が聞こえるような時代になった」と表現した。
 当時93歳。その1年前に背骨の圧迫骨折で入院し、胆囊(たんのう)がんの手術を受けた。退院後も4カ月間、寝たきりのような状態だった。病み上がりにもかかわらず、突然、「国会前に行く。そのまま死んでもいい」と秘書に告げた。デモのわずか2日前のことだ。

朝日新聞社
https://www.asahi.com/articles/ASM6S656NM6SPOMB014.html