歴史問題に起因した日本と韓国の対立が、経済分野から安全保障分野に拡大した格好だ。東アジア全体の安保環境にも影響を及ぼしかねない。極めて憂慮すべき事態といえる。

 日韓両政府はこれ以上、対立が拡大するのを避け、冷静な話し合いを進めるべきだ。

 韓国政府が、日本と結んでいる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めた。23日に日本政府に通知した。

 破棄の理由について韓国大統領府は、日本の対韓輸出規制強化が「両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらした」とし、協定維持は「国益にそぐわないと判断した」と説明した。

 歴史認識や通商分野での対立を安保分野に持ち込み、日韓の亀裂をさらに深めた文在寅(ムンジェイン)政権の判断は残念だ。誤った決定と言わざるを得ない。

 軍事情報包括保護協定は、軍事上の機密情報を提供し合う際に第三国への漏えいを防ぐために結ぶ協定をいう。日韓間では2016年に結ばれた。

 日本は米国から詳細な情報提供を受けているとされ、協定破棄の影響は限定的との見方もある。韓国内ではもともと、植民地支配の歴史から日本との協定締結に反対世論が強かった。

 問題は今回の協定破棄が、日米韓3カ国による東アジアの安全保障を揺るがしかねないことだ。北朝鮮は核・ミサイル開発を続け、中国は軍事力を増強させている。ロシアの軍事活動も活発だ。

 日米韓の連携のほころびは、結果的に北朝鮮や中国、ロシアを利することになりかねない。北朝鮮による日本人拉致問題への影響も懸念される。

 米国防総省は「文在寅政権の決定に強い懸念を表明する」と文政権を名指しし、異例の強い表現で不満を表明した。

 中立的立場を取ってきた米国の厳しい批判だ。文政権は真摯(しんし)に受け止めてもらいたい。

 戦後最悪の日韓対立の発端は昨年10月、韓国人元徴用工訴訟で韓国最高裁が日本企業に賠償を命じたことにある。

 請求権問題は1965年の日韓請求権協定で「解決済み」という日本の立場からは受け入れられるものではない。

 文政権はさらに、慰安婦問題を巡る日韓合意に基づいて設立された財団を解散した。文政権への不信が高まる中で日本政府は、輸出管理の優遇対象国から韓国を除外する決定をした。

 対立が深まるにつれ、それぞれの問題に対する見解の違いは大きくなり、譲歩の余地が小さくなっているように見える。

 心配なのは、国民感情がさらに悪化することだ。政府が対立しているからこそ、若者を中心に根付いている国民同士の友好関係は大切にしていきたい。

 安倍晋三首相は23日、韓国への対応について「国と国との約束を守るように求めていきたい」と述べた。対話のパイプを遮断してはならない。

 目指すべきは勝ち負けではなく、共に納得できる着地点を探る知恵を出すことだ

社説
https://www.niigata-nippo.co.jp/sp/opinion/editorial/20190824490586.html