<新たに2カ国が外交関係を断絶したが孤立を図る中国の戦略は反発を招くだけだ>

ダブルパンチの断交劇だった。

9月16日に南太平洋のソロモン諸島、20日にキリバスが台湾との外交関係の断絶を通告。ソロモン諸島は21日に、キリバスは27日に中国と国交を樹立した。

今回の一件で、台湾と外交関係を維持する国は15カ国にまで減った。札束外交で国際社会での台湾の孤立を図る中国は、新たに2つの勝ち星を挙げた形だ。こうした中国の戦略は今後も成果をもたらす可能性が高い。

長期的に考えれば、台湾が規模も経済力もはるかに大きい中国と競うのは無理がある。中国が「一帯一路」構想に基づく外交政策の中核に、対外援助を据えているならなおさらだ。

だが、中国政府が見逃している点が1つある。台湾の外交的孤立を狙う戦略によって、中国の利益が損なわれるリスクだ。台湾の孤立は中台統一につながらず、むしろ台湾は国家承認に向けて新たな道を模索することになるだろう。

そうした動きは既に始まっている。昨年8月、中米エルサルバドルが台湾と断交した際、台湾総統府の黄重諺(ホアン・チョンイエン)報道官が「外交関係を全て失う事態を含め、あらゆる可能性を検討している」と、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは報じた。

以来、台湾の政権は断交を主権に対する攻撃と位置付け、非難の語気を強めている。市民の反応も同様だ。台湾の若者たちは14年、当時の国民党政権の対中融和姿勢に反発し、「太陽花(ヒマワリ)革命」によって立法府を占拠した。

国際社会で孤立が進めば、怒る台湾市民は政治家に、中国の台湾での影響力拡大を招きかねない政策を拒否するよう迫るだろう。そうなれば、中国が台湾で政治的に手を組む相手を見つけることは難しくなる。

「独立国家・台湾」への道

中国政府は先頃、来年1月に予定される台湾総統選の野党・国民党候補、韓國瑜(ハン・クオユィ)高雄市長への支持を表明。伝統的に親中派である国民党中心の「青色陣営」を今も連携相手候補と見なしているが、国民党が中台統一を検討できる状況にあるとは考えられない。

以前は対中関係強化を訴えていた韓だが、一国二制度を実現させるなら「私の屍を越えて行け」と発言して態度を変化させている。中国政府と国民党の立場のギャップは広がり続け、両者の交渉が実現する見込みはこれまで以上に薄くなっている。

国民党の中国離れが進めば、与党・民主進歩党(民進党)を中心とする「緑色陣営」は独立志向をさらに強調するだろう。

その中でも、存在感が際立つのが台湾独立を主張する一派だ。サウスチャイナ・モーニングポストによれば、台湾の游錫堃(ヨウ・シークン)元行政院長(首相に相当)は「中華民国として外交関係を失うとしても、独立国家・台湾として同盟国を得られるだろう」と発言。

さらに、外交関係維持のための対外援助をやめれば、その分の予算を台湾人に振り向けられるという独立派の主張が、さらに多くの有権者の心をつかむ可能性も否定できない。

外交関係を結ぶ国がゼロになれば、台湾は国家だとの主張は説得力を失う。それでも台湾は中国の主権を受け入れず、中台統一にさらに背を向けるだろう。

既に中国への懐疑を強めている台湾の政界は、これまでとは別の選択肢を探ることになる。孤立化を図れば台湾の政治秩序や現行体制は不安定化し、結果として中国の長期的利益が損なわれる。

台湾で独立志向が高まる未来を望まないなら、中国は断交戦略を見直すべきだ。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13096.php
Newsweek 2019年10月3日(木)11時30分トラビス・サンダーソン (台北在住ジャーナリスト)