韓国政府は21日の閣議で「2032年夏季五輪ソウル・平壌共同誘致・開催推進計画案」を決定した。「急ぎ過ぎるな」という米国の警告にもかかわらず、前日の北朝鮮への個人観光旅行推進に続き、五輪推進も政府レベルで公式化した格好だ。総事業費50億ウォン(約4億6900万円)以上の国際イベント開催時に実施が必要な妥当性調査も「国家政策的に事業推進が確定した事案は免除できる」とする例外規定に該当するとして、省略されたことが分かり、拙速過ぎるとの論争が予想される。北朝鮮に一方的にラブコールを送る余り、誘致から開催までに数兆ウォンがかかる五輪共催カードを国民的合意もなしに切ったとする指摘も出ている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が任期後に行われる事案に対する「政治的居座り」行為だとする声もある。

 文化体育観光部は同日の閣議で、南北による五輪共同誘致・開催を推進するための政府計画を報告した。文化体育観光部は計画案で「32年五輪南北共同誘致・開催は南北首脳が平壌共同宣言を通じて合意し、国際オリンピック委員会(IOC)に南北共同で誘致意向を表明した事項だ」とし、「スポーツを通じた北東アジアと韓半島の平和定着に寄与するための重要な国政課題だ」と位置づけた。同部関係者は「五輪の開催趣旨と基本方向、概括的な必要予算などを盛り込んだ第1次ロードマップだ」とし、「今年上半期中に統一部などと韓国側の合同実務推進団を構成する」と説明した。閣議決定を通じ、五輪共同誘致のための法的根拠ができたことをうけ、本格的にスピードを上げる姿勢だ。結局2018年の平昌冬季五輪と同様、五輪を南北の交流ルートとして利用する構想と言える。

 韓国政府は今回の議決に先立ち、共同誘致・開催推進案の妥当性調査も省略したとされる。企画財政部の訓令である「国際行事誘致・開催などに関する規定」によると、国際イベントの総事業費が50億ウォン以上の場合、主管機関は対外経済政策研究院による妥当性調査を受けなければならない。しかし、「閣議など大統領が主管する会議で国家政策的に事業推進が確定した行事は調査対象から除外できる」とする例外規定を設けている。政府がこの規定を利用し、妥当性調査を省略するため、閣議決定を急いだとの指摘がある。対北朝鮮関係を進展させるため、財政の健全性は後回しにした格好だ。政府関係者は「韓国・東南アジア諸国連合(ASEAN)特別首脳会議も閣議決定で妥当性調査が免除された」と指摘した。しかし、韓国政府が単独で推進する国際会議と北朝鮮側の意向も不明で開催に天文学的な費用がかかる南北五輪共催は話が別だとの指摘が多い。

五輪の共同誘致・開催が国際社会による対北朝鮮制裁への協調の流れに逆行するとの批判も高まっている。米国は最近連日「南北協力は必ず非核化の進展と歩調を合わせて進められるべきだ」と表明している。五輪誘致・開催時に投入される数兆ウォンの予算の大半は韓国政府が負担しなければならない可能性が高い。北朝鮮の誘致費用と施設建設費用などを一部でも負担すれば、財政的負担だけでなく、国連制裁違反の疑いも濃厚だ。韓国政府が「マイウエー」にこわだれば、韓米同盟がぎくしゃくすることもあり得る。

 五輪誘致のための南北鉄道・道路接続を含めれば、韓国政府の費用負担が際限なく増大する。たとえ誘致に成功したとしても、開幕直前まで共同開催の実現は油断できない。政府関係者は「現時点で必要予算を予想することはできず、最近の五輪などを基準とした推定値だけを参考している」と述べた。平昌冬季五輪の施設運営にかかった予算は約2兆8000億ウォンに達し、ブラジル・リオデジャネイロ五輪の場合、開催費用は約5兆ウォンと推定される。

 韓国政府によると、32年五輪誘致戦は文大統領が退任する22年以降に本格化するとみられる。既に4年目に入った文大統領の任期中には目に見える成果が得られないことになる。文大統領は今月7日の新年の辞に続き、14日の新年会見でも「32年南北五輪共催は既に合意した事項だ」と強調した。天文学的な予算が必要な事業を予算検討どころか、国民的合意もなしに「速度戦」で推進すれば、次期政権に大きな負担になるばかりでなく、国民的対立を生むことになりかねない。

アン・ジュンヨン記者

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朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2020/01/22 09:00