米国で季節性インフルエンザが猛威をふるい、患者は2600万人以上、死者は約1万4000人にのぼっている。
だが、一連の情報を発表してきた米疾病対策センター(CDC)が「インフル症状だった人に新型コロナウイルス検査をする」と発表した。
麻酔科医の筒井冨美氏は、「インフル患者とされた人の中に、相当数の新型コロナ患者がいる恐れがある」という――。

世界的に新型コロナウイルス関連のニュースが相次ぐ中、2月14日、筆者たち医師にとって極めて気になるニュースが飛び込んできた。
それは、米当局が「インフルエンザに似た症状が確認された患者に対し、新型コロナウイルス検査を開始する」というものである。

筆者は早速、記事のソースであるCDC(Centers for Disease Control and Prevention米疾病対策センター)ホームページを確認した。
CDCとは、米国で感染症対策の司令塔となる国立総合研究所である。感染症対策としてはWHO(World health organization世界保健機構)と並ぶ、
世界的に信頼できる組織として医療界では扱われている。

そのCDCが記者会見(2月14日)で、「新型コロナの検査対象を大幅に見直す」という発表をしたのだ。
日本国内ではそれほど大きく報道されていないが、これはとても重要な意味がある。

CDCのウェブページによると、新型コロナウイルスとは「中国発祥の新規感染症」と扱われており、
2月上旬まで検査対象は「『中国への旅行者、旅行者と濃厚接触者』『発熱もしくは呼吸器症状がある人』の双方の条件を満たす」であり、
2月14日時点での米国内患者数は443人検査したうち15人だった。

しかしながら、新型コロナは「ウイルスに感染しても無症状期がある」「無症状患者でも感染力がある」と判明しつつある。
そのため、CDCセンター長は次のように宣言した。

「ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、シカゴ、ニューヨークの5大都市における公衆衛生検査機関で、
既存のインフルエンザ監視システムと協力して、インフルエンザに似た症状を示した患者に対しても、新型コロナ検査を開始する」

つまり、大量検査体制の確立もあって、CDCは「中国に無関係でも呼吸器症状があれば検査を行う」と方針転換したわけだ。

すでに報道されているように米国内では2019‐20年の冬、季節性インフルエンザが猛威をふるっている。
CDCによれば「患者数2600万人以上、入院者約25万人、死者約1万4000人」と推定されている。

米国は日本のような皆保険ではなく、医療機関の受診には高い費用が伴う。
「風邪で外来受診すると5万円」レベルの自己負担が一般的であるため、一般庶民は風邪をひくと
「たぶんインフルだな、流行っているし」と自己判断で自宅療養するケースが多い。

また、職場も「病院受診や診断書は不要、自己申告で病休可能」が主流である。よって、
「2600万人のインフルエンザ患者」という統計の大部分は、症状のみで判断されている。

症状(特に初期)だけではインフルエンザと新型コロナの区別は困難だ。

インフルエンザの迅速検査キットは簡便性があるが正確性には限界があり、
自己申告の“インフルエンザ”患者は簡易検査すらされていない可能性が高い。

そして、今回の検査方針転換によって、今までの統計上“インフルエンザ”と扱われてきた患者の中に、
相当数の新型コロナ患者が含まれていたことが判明する可能性がある。

その結果次第では「米国では今冬インフルエンザが大流行」と報道されていた感染症の実態は、「実は新型コロナが以前から流行していた」と覆るかもしれない。

2月15日に「名古屋市の日本人夫婦がハワイ旅行の後、新型コロナ感染」が判明しているが、
これをその米国での流行のサインではないか、ととらえる日本人医師さえいる。

日本の新型コロナ対策は、ここへきてようやく「市中感染」を前提としたものに移りつつあるが、
これまでは「ダイヤモンド・プリンセス号の停留」や「中国航路の減便」など、「対中国の水際対策」が中心だった。

今後もし、米国で広範囲の感染が確認された場合、「中国関係者のみ排除しても意味がない」ことはますます明白なものとなるだろう。

「潜伏期や無症状患者を考えると、日本国内でも新型コロナの大量検査体制が確立されたら、中国とは無関係な感染者が多数検出されるはず」
と考える医師は多く、筆者もその一人である。
https://president.jp/articles/-/33051