19日午前11時ごろ、横浜市内の大黒埠頭(ふとう)。医療用マスクをした70代日本人夫婦がスーツケースを引いて埠頭のターミナルビルをゆっくり抜けてきた。約100メートル外で待機していた報道陣のカメラ数十台が一斉にこの夫婦の方に向かっていった。「武漢肺炎」感染者が一日に数十人ずつ増え、「漂流するウイルス培養皿」「恐怖の船上監獄」と呼ばれているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に対し、下船許可が出されて初めて陸を踏んだ一般乗客だった。これまでは、武漢肺炎の感染が確認されたり、80歳以上の高齢者のうち、健康状態が良くなかったりした乗客だけが船から降りることができた。

 夫婦は日本政府が用意したバスやタクシーに乗らず、何の規制もなく歩いて埠頭の正門を通過した。続いて近くのバス停で20分ほど待った後、路線バスに乗って帰途に就いた。用意されたバスに乗るよりも、そうした方が東京都内の家に帰るのに便利だということだった。

 ダイヤモンド・プリンセス号は先月20日に横浜港を出港し、鹿児島・香港・ベトナムに寄港、沖縄を経て今月3日に横浜港に戻ってきた。先月25日に香港で降ろした80歳の中国人乗客が武漢肺炎感染者であることが明らかになり、3日から横浜港に停泊したまま隔離された。しかし、19日の一日だけで79人が新たに感染したのを含めて、同日までにこの船の乗客・乗員約3700人のうち、621人が武漢肺炎患者感染者であることが確認され、日本政府が「防疫惨事」を生み出したと批判されている。日本は結局、横浜に停泊した後に最初の感染者が発生した5日から2週間が過ぎた19日から、検査で陰性だった乗客を下船させることにした。

 下船初日の19日、443人が船から降りた。最初に船から降りた70代の夫婦を除き、ほとんどが政府が用意したバスに乗って横浜駅などに移動した後、公共交通機関に乗り換えた。下船は21日まで続く。感染者と濃厚接触していた乗客は数日間、船内に残らなければならない。公共交通機関で帰宅した乗客たちは「日常生活に戻っても問題がない」と日本政府が判断したという意味で、防疫網から実質的に外れることになる。

日本社会は不安に震えている。ほぼ毎日、感染者が追加で数十人ずつ増えている中、潜伏期間が2週間よりもっと長い可能性がある上、何の措置もせず下船させれば、さらなる感染拡大が起こるかもしれないという懸念だ。日本とは違い、韓国政府は19日、空軍機で日本から帰国させた同号の乗客・乗員7人を仁川空港検疫施設で2週間隔離することにした。武漢肺炎の感染が確認された人はいないが、万一の事態に備えるためのものだ。米国もチャーター機で帰国させた同号の乗客約300人に対し、追加隔離措置を取っている。

 すぐに下船した乗客からも懸念の声が上がっている。同日、最初に下船したトモダカヨコさん(71)は「乗務員たちに本当に感謝しているが、(ウイルスに感染しなかったのは)運としか言えないようだ。今月4日に全員陰性だと言われたが、感染者が増え続けている。下船した後も(どうなるか)分からない」と語った。この日下船した70代男性も、東京新聞のインタビューに「10日前に陰性判定を受けた。それでも不安で、下船直前にあらためて検査を要請したが、受け入れられなかった」と言った。船に残っている神戸出身の67歳の女性も毎日新聞に「後で家に帰ってから、家族に(ウイルスを)移してしまうのではと心配になる。目に見えない恐怖がある」と話した。

 この日下船した乗客の移動を手伝ったバスの運転手や公務員たちがマスクを着用し、手袋をはめている様子を見て、「全員陰性だと言いながら、なぜあのようにしているのか」と矛盾を指摘する批判の声もある。日本のメディアで「和食が食べたいからすし屋に来た」という下船した乗客のインタビューが報道されると、「もうそんなことをしてもいいのか」と非難するネットユーザーもいた。

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東京=イ・テドン特派員

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朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2020/02/20 08:10