新型コロナウイルスの感染症COVID-19の患者が雪だるま式に膨らんでいる韓国では、
患者の行動に関する情報を政府が公開している。

患者の近くにいたか国民に判断させるのが狙いだが、その内容の詳しさが、感染とは別の社会不安を招いている。

BBCニュース・コリアンのヒョンウン・キム記者が自宅にいると、携帯電話が物騒な音をたて、緊急メッセージが表示された。
「43歳男性、ノウォン区の住民、コロナウイルス検査で陽性」、「マポ区の勤務先でセクハラ講習を受けていた。講師からウイルスに感染した」。

続けて、夜11時3分までバーにいたことなど、男性の行動が続々と伝えられた。

感染者がいつどこにいたかを知らせるこうした緊急メッセージが、1日中、毎日届く。
保健福祉省のウェブサイトでも、情報を確認することができる。

名前や住所は記されていない。しかし、点と点を結んで、それが誰だか特定する人もいる。感染者の2人は世間によって、不倫していたと断定された。

個人の特定まで至らなくても、感染者はインターネットで非難され、嘲笑される。

ネット上には、「こんなにたくさんの人がラブホテルを使っているなんて知らなかった」というコメントも出ている。
不倫中の人は最近はおとなしくしているはずだと、面白がる人も大勢いる。

韓国ではCOVID-19の感染者は5000人、死者は30人を超えている。
しかし、感染者のほとんどは重症にはなっておらず、韓国人は新型ウイルスよりも感染した場合の社会的な差別や偏見を恐れている。

ソウル大学公衆衛生大学院の研究チームは最近、1000人の韓国人に何が一番怖いか質問した。その回答は――

自分の周りに感染者がいるかもしれないこと
感染したら、批判されたり、さらにもっとひどい目に遭うかもしれないこと
自分自身が未発症でも感染しているかもしれないこと
――という結果だった。

ユ・ミョンソン教授の研究チームによると、ウイルス感染そのものよりも「批判や、さらにもっとひどい目」に遭うことが恐怖の対象になっているという。

感染者をオンラインで追及すれば、深刻な悪影響があり得ると複数の医師が懸念している。
韓国では以前から、悪意に満ちたオンラインの書き込みが社会問題となっている。それが理由で自殺に追い込まれた人も複数いる。

京畿道コヤンにある明知病院の精神科医、イ・スヨン医師はBBCコリアンに、
自分の患者の中には「ウイルスで死ぬより、非難される方が怖いと恐れる」人が複数いると話した。

「自分のせいで知り合いが感染した」、「自分のせいであの人は隔離された」と、繰り返し訴える患者がいるのだという。

不倫関係にあったとされる2人の感染者は、この明知病院で治療を受けた。
このうち1人は、オンラインのコメントによって強度の不安に襲われ、睡眠障害に陥ったという。

新型ウイルスが国内で急速に広まる状況では、国民が自分や周囲の人を守るために必要な状況を与えられるのが不可欠だ。
しかしイ医師は、与えられた情報について国民が成熟した対応をしない限り、非難を恐れる感染者が情報を隠しかねないし、
そうすると全員にとって危険が増すばかりだと指摘する。

韓国CDCのコ氏によると、政府がここまで感染者の個人情報を出すのは初めてだとうう。
「新型ウイルスの流行が収まった後、これが有効で適切だったのか、社会として判定する必要がある」
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-51748587