日常生活でマスクをつける習慣がなく、「(マスク着用は)外国の文化」(クルツ・オーストリア首相)とされる欧米でマスク着用を推奨する動きが急速に広がっている。世界を猛スピードで覆う新型コロナウイルスに、欧州や米国の専門家から「マスク着用が定着しているアジアで感染拡大が抑えられている」「無症状者からの感染を防ぐ効果が期待できる」との見解が出され、マスクの効果に懐疑的なトランプ米大統領ら各国の首脳も「不要論」を見直し始めた。

 トランプ大統領は3日に記者会見し、新型コロナの感染拡大を阻止するため、国民にマスクなど布で顔を覆うことを推奨すると発表した。米政府は、健康な人がマスクを着用する必要はないとしてきたが、無症状の感染者によるウイルス拡散を抑えるため、従来の方針を見直した。

 米疾病対策センター(CDC)は当初、マスク着用による予防効果は低いと指摘していた。しかし、感染しても症状が出ない人が全体の25%程度にのぼることが報告され、専門家の「知らない間に感染していた場合にはマスク着用こそ効果があるのでは」との見解を受け、マスクの使用を要請する勧告を出した。

 米国では、日本のように外出時にマスクを着用する習慣はなく、重病者や医療現場に携わる人が使うものとされている。市民がマスク購入に走れば医療現場での不足が深刻化する恐れもあり、トランプ氏は「一般の人は家にある布などで自作できる」と呼びかけた。

 欧州でも「アジアを見習え」とマスク着用の動きが広がっている。「マスク配布は医療用に限定」してきたフランスのマクロン大統領は3月末、仏西部のマスク工場で演説し、国内での増産を約束した。「さまざまな職種に順次供給できるようにする」と訴え、方針の見直しを表明した。

 マクロン氏が見直しを迫られたのは、外出禁止令のもとでも出勤が不可欠な警察官やスーパー店員らの間で「マスクなしに、身の安全が確保できない」と不満が相次いだためだ。マスクは政府が管理しており、処方箋がなければ市販品は入手できない。

 仏政府の「マスク不要」指針は、「健康な人にマスクは不要」としてきた世界保健機関(WHO)の指針に沿ったものだったが、マスクの着用が定着しているアジアで感染拡大が抑えられていることなどを主張する医師が相次ぎ、WHOも3日、「他人に感染させる可能性は低くなる」と一定の効用を指摘した。

 オーストリアのクルツ首相は「欧州はマスク着用で大きな間違いを犯した」と発言。今月からスーパーでマスクの無料配布を開始し、買い物客に着用を義務付けた。

 チェコやスロバキアは、マスクやスカーフなどで鼻と口を覆わずに、買い物に出かけることを禁じた。ドイツも積極的な着用を呼びかけている。(ワシントン 住井亨介、パリ 三井美奈)

 各国のメディアは、「アジア人はなぜマスク着用に慣れているのか」を解説、分析する記事を相次いで掲載。日本を「マスク文化」定着の先駆けとして紹介している。

 韓国の聯合ニュースは、「日本では花粉症対策のため、1970〜80年代からマスクが使用されてきた」と説明。日本の女性はノーメークのときにマスクを使用する習慣もあると紹介した。韓国でも近年、微小粒子状物質「PM2・5」対策でマスク着用が広がったとする一方、欧州ではテロや過激デモを警戒し「表情を隠すことに拒否感がある」と分析した。

 英BBC放送(電子版)はシンガポール発の記事で、2002〜03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行に伴い、多数の死者が出た香港などでマスク着用の重要性が認知されたと指摘。「伝染病を経験しているかどうか」が着用習慣の違いにつながっているとした。(時吉達也)

産経新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200404-00000534-san-n_ame

4/4(土) 18:09配信