●言論封じる力、決して屈しない 阪神支局襲撃33年

朝日新聞阪神支局襲撃事件と言論をめぐる主な出来事
 朝日新聞阪神支局で記者2人が殺傷された事件は、1987年5月3日の憲法記念日の夜に起きた。「反日朝日は 五十年前にかえれ」。言論の自由を否定する犯行声明文を残した「赤報隊」は姿を消し、事件は未解決で終わった。あれから33年。言論をめぐる状況はどうなのか。新型コロナウイルスの感染拡大で中止となった「言論の自由を考える5・3集会」に登壇予定だった4人が語った。


 ■忖度が働く、不自由な社会 元キャスター・村尾信尚さん(64)

 社会で分断が進んでいる。匿名性というネット社会の負の面が出ているのだろう。心ない意見を恐れ、心の中で抑制する忖度(そんたく)のようなものが働いている。政治の現場では、安倍政権が、「こちら側」と「あちら側」に分けているように見える。不自由な社会だ。
 キャスター時代も不自由があった。テレビは視聴率が命で、そことのせめぎ合いだ。例えば、大相撲の暴行事件。連日トップニュースで、視聴率は高い。でも、米国トランプ大統領の政策など重要なニュースはたくさんあるのに、なぜトップなのかとスタッフと何度もやりあった。
 歴史をひもとくと、戦争へと突き進む政府は世論を一つにする。それを防ぐためには、言論、表現、学問の自由が不可欠だ。ただ、こうした点に関心のない人もいて、どう伝えるかが問われている。難しい言葉で伝えても、自己満足で聞き手には伝わらない。僕は人口減少を伝える時、多くの人が身近に感じている宅配便の人手不足から取り上げた。意義が伝わらないとすれば、語り手が工夫を怠っているからだと思う。

 むらお・のぶたか 2006〜18年「NEWS ZERO」キャスター。近著に「B級キャスター」。


 ■議論呼ぶ芸術、許さぬ空気 映画監督・天野千尋さん(37)
 日本では国の文化的支援が厚くなく、公開映画の大多数が「商業作品」。内容もわかりやすい起承転結が求められ、「笑える」「泣ける」と一言であらわせないと企画として成立しないと言われることもある。制作も配給もバッシングに敏感で、何かあればすぐ自粛する。芸術的な「自由」度が高いとは言い難い。
 一時中止となったあいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由展・その後」問題。不思議だったのは、抗議の多くが主催者や行政に向かったこと。まるで行政に芸術をコントロールしろと求めているようだった。深読みすると、日本における芸術は、見て「気持ちいい」もので、幅広い議論を呼んだり強烈な主張を持ったりすることは歓迎されていないと感じた。
 最近はSNSの負の面に怖さを感じる。物事の一面だけが捉えられバッシングがエスカレートし、分断や排除が進む傾向がある。最新作は、騒音を巡るご近所トラブルがメディアやSNSを巻き込んで大ごとになっていく話。他者を一方的に「悪」だと決めつける危うさを描きたかった。


 あまの・ちひろ 会社勤務の傍ら映画制作を始める。最新作「ミセス・ノイズィ」は今年公開予定。

https://www.asahi.com/articles/DA3S14464867.html