終戦75年の節目となった15日の全国戦没者追悼式で、安倍晋三首相は持論の「積極的平和主義」に初めて言及するなど、過去への反省に背を向ける姿勢を鮮明にした。アジア諸国への加害責任には8年連続で触れず、「歴史に謙虚に向き合う」など従来取り入れてきた言葉も消えた。戦争の教訓に向き合おうとしない首相の下、政府は敵基地攻撃能力の保有を含む安全保障戦略見直しを議論しており、戦後日本の平和主義は揺らぎ続けている。

 新型コロナウイルス感染防止のため、空席が目立つ東京都千代田区の日本武道館。首相は「戦争の惨禍を二度と繰り返さない。この決然たる誓いをこれからも貫く」とした一方、「積極的平和主義の旗の下、国際社会とこれまで以上に役割を果たす」と踏み込んだ。

 首相の2018年までの式辞には「歴史に謙虚に向き合い、その教訓を深く胸に刻みながら」との趣旨が盛り込まれ、19年は「歴史の教訓を深く胸に刻み」と述べたが、今年はいずれの文言も消えた。

 首相周辺は「『戦陣に散った方々』などの表現で教訓には触れている。言葉がなくなったことに意味はない」と話すが、敗戦国としての歴史観を拭い去りたい首相の意向が透ける。「深い反省」の表現を踏襲した天皇陛下のほか、大島理森衆院議長も「過去をかえりみて」と述べた中で、首相の歴史認識は際立った。

 首相が唱える積極的平和主義は、国際平和のため日本が軍事面でも貢献していくとの思惑で、第2次政権発足翌年の13年、国連総会で表明。国家安全保障の基本理念と位置づけ、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更や安全保障関連法制定を推し進め、憲法に基づく従来の平和主義を大きく変質させてきた。

 首相は15年の戦後70年の談話でも、積極的平和主義を掲げ「未来志向」を強調。アジア諸国への侵略と植民地支配への反省とおわびについては、過去の談話を引用する形で間接的に言及するにとどめた。戦後75年の今年の式辞もアジア諸国への言及はなく、加害責任に触れなかった。

 父を沖縄戦で亡くし、追悼式に参列した松村豊明さん(78)=札幌市豊平区=は首相の式辞を聞き「戦争は絶対にいけない。歴史の教訓を忘れてはいけないというメッセージが聞きたかった」と話した。

 15日は小泉進次郎環境相や衛藤晟一沖縄北方担当相ら4閣僚が靖国神社を参拝した。

 安倍政権で最多の閣僚が参拝したのは、首相の自民党総裁任期が来年9月に迫る中、政権にとって最後の終戦の日になる可能性があることも背景にある。衛藤氏の「参拝は中国、韓国に言われることではない」との言葉が物語るように、過去の歴史への謙虚さを失いつつある政権を象徴する一日となった。(吉田隆久)

北海道新聞 8/16(日) 6:31
https://news.yahoo.co.jp/articles/ee1a6bbd66108748eb07d4393e0c8d852b725323

第2次安倍政権発足以降の政権と「戦争」を巡る動き
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