近年、日本を取り巻く国際情勢は大きな変革期を迎えた。

 最大の要因は、米中の衝突だ。2013年の習近平国家主席就任以来、覇権主義を強める中国は、札束外交で各国を傘下に置き、今年6月には香港に「国家安全維持法」を制定し民主派を追いつめている。

 一方の米国は、2017年のトランプ政権発足以来「アメリカ・ファースト」を推し進め、台頭する中国を封じ込めようと躍起だ。最近は互いの総領事館を閉鎖するまで、米中対立が激化している。

 従来、安倍政権は親米路線だが、トランプ大統領は自国第一主義を深めるうえ、前言撤回や態度豹変が日常茶飯事であり、全幅の信頼を置くことはできない。

 そうした間隙を縫って存在感を増すのが台湾だ。

 8月9日、米国のアザー厚生長官が台湾を訪問し、10日には蔡英文総統と会談。1979年の断交以降、最高レベルの高官の訪台となり、米国の本気度が窺える。

 だが米国以上に台湾との関係を重視すべきなのは、日本かもしれない。双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏が指摘する。

「米中対立が激化する中、“米中のどちらを選ぶ”と迫られた時、日本と台湾は同じ立場で悩める関係です。ともに親米路線ですが、露骨に米国を選ぶと近隣の超大国である中国から巨大なプレッシャーをかけられるため、中国にも配慮が必要になる。同じポジションにいるからこそ、日台はともに悩んで知恵を出し合う関係を築けます。韓国も同様の立ち位置のはずですが、現段階で日韓は歴史問題を巡って対立しており、協力的な関係を築くことは難しい」

 経済での連携も欠かせない。トランプ政権は6日、動画アプリ「Tik Tok(ティックトック)」とメッセージアプリ「ウィーチャット(微信)」を運営する中国企業との取引の禁止を発表。日本国内でも今後、何らかの措置が取られる可能性が出てきた。

 こうした中、頼りとなるのが台湾だ。

「台湾はハイテク産業が伸びていて、半導体の開発製造の実力が高く、半導体が衰退した日本企業が連携を深めるメリットは大きい。台湾を代表するIT企業、鴻海(ホンハイ)がシャープを救済したことが好例です」(吉崎氏)

 実際、昨年10月に世界経済フォーラムが公表したイノベーション力指数で台湾は世界4位となり、6位の韓国と7位の日本を上回った。

コロナ対策で脚光を浴びたデジタル担当相の唐鳳(オードリー・タン)氏は日本のアニメの大ファンで、「コロナ対策やスタートアップ振興などで日本と協力したい」と語っている。「天才デジタル担当大臣」のこうした路線も日本経済の追い風となるはずだ。

 安全保障面でも日本と台湾は「ウィン・ウィン」の関係を築ける。元航空自衛隊3佐で評論家の潮匡人氏が指摘する。

「一国二制度を唱えながら、香港の弾圧を始めた中国を見て、“明日は我が身”である台湾は、自由主義国の日本と連携する必要性を感じているはずです。日本にとっても台湾はシーレーン上の要衝であり石油をはじめとする多くの資源をこのシーレーンを通して輸入している。万が一、台湾が中国に渡ったら、タンカーは遠回りしなければならず、資源価格が一気に高騰する可能性がある。日台の連携は、お互いの安全保障面からも重要です」

 日台関係は、台湾の目と鼻の先にあり、中国が虎視眈々と占拠を狙う尖閣諸島の領有権問題にも直結する。

 台湾の戦略的重要性に気づき始めた日本政府は、2020年度版の外交青書で初めて台湾を「極めて重要なパートナー」と位置付けた。

 だが日台の歴史を振り返れば、青書は遅きに失したと言わざるを得ない。

李登輝氏が込めた期待
 歴史的に見ても台湾とは連携が取りやすい。日本と台湾の交流は、1895年からの日本統治時代に遡る。

「この時代に日本は台湾の近代化を推進しました。縦貫鉄道や港湾、飛行場や電話網などのインフラ整備が進み、灌漑や品種改良などで農業技術が向上し、教育水準も上がったことが、戦後に台湾が経済発展する礎となった。

 しかも台湾では、戦後に中国から流れてきた国民党の統治があまりに強権的だったため、日本時代の寛容な統治を好意的に懐かしむ人が多かった」(潮氏)

(略)

「もともと日台関係は良好で、お互いが気持ちよく付き合える関係性があります。同じ自由主義陣営で価値観を共有し、歴史問題も台湾は未来志向で、個々の問題にも是々非々で対応する。日本は新たな日台関係を構築すべきだと思います」(ジャーナリスト・野嶋剛氏)

 今こそ頼れる隣国の存在に向き合うべきだろう。


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