韓国世論が安倍首相の健康問題に異様な関心を示していると筆者は語る

日韓関係の悪化について「アベのせい」と思い込んでいるためだと指摘

「原因と結果」を取り違えた大いなる対日勘違いは深刻だと綴っている


「アベが代われば…」韓国世論が“安倍首相の健康問題”に異様な関心を示す理由

 最悪といわれる日韓関係の背景には日本の変化がある。これまでの日韓関係というのは、韓国が日本に対し不満や要求、怒り、批判をぶつけることで対立する構図だったのが、最近はそれが逆になったのだ。

 今や日本が韓国に対し不満や怒りをつのらせ批判、非難が広がっているのだ。その日本の変化の背景は、韓国で執拗に繰り返される反日現象に対する日本世論の「またか、いい加減にしろ!」という不満、怒り、つまり反韓・嫌韓感情である。

関係悪化は「アベのせい」と思い込んでいる

 これは過去にはなかった日韓関係の新しい構図である。この新しい構図の日韓関係の今後を考えようとしたのが筆者の新著『反日vs.反韓―対立激化の深層』(角川新書)である。この本では新しい視点として「日本人の対韓被害意識」ということを、歴史を遡りながら提示させてもらった。

 最近の日本世論の反韓・嫌韓感情には「日本は韓国によっておとしめられている」という被害感情が明らかにある。

 ところが日韓関係の悪化について韓国世論はひたすら「アベのせい」と思い込んでいる。その結果、直近の風景でいえば「アベが代われば日韓関係はよくなる」といわんばかりに安倍首相の健康問題に異様な関心を示している。「原因と結果」を取り違えた大いなる対日勘違いは深刻である。

日本向け“被害者ビジネス”

 この誤解は日ごろの韓国メディアの対日偏向報道の結果だが、韓国世論では日本世論が韓国に対し怒っている現状と理由はまったく理解されていない。まして日本人の対韓被害意識など思いもつかない。朴槿恵・前大統領など「被害・加害の歴史は1000年経っても変わらない」などといって日本向け“被害者ビジネス”を語っていたぐらいだから。

 ところが一方で、韓国人、とくにメディアや知識人は日ごろ「国際関係には永遠の友も永遠の敵もない」というセリフを好んで使いたがる。敵味方はいつでも変わりうるということで、この地の国際関係論の“目ざとさ”を自慢(?)しているのだが、とすると加害者・被害者の構図も変わりうるのだ。

歪んだ「対日戦勝史観」が広がっている

 韓国は長年、日本に対しては“被害者ビジネス”に慣れ親しんできたため、自らの加害性には思いが及ばない。だから日本に対しては何をいっても、何をしても許されるという「反日無罪」「愛国無罪」がまかり通ってきた。国際社会での“告げ口外交”や、ことあるごとに日本の足を引っ張る言動もそうだ。

 たとえば東京オリンピックに対する“フクシマ風評被害”の流布や、パラリンピック金メダルのデザインに対する“旭日旗イチャモン”など、度を越えた反日パフォーマンスは日本人の反韓・嫌韓感情を確実に刺激している。

 韓国側の過剰な反日現象の背景には近年、韓国社会における“歴史歪曲”としての「対日戦勝史観」の広がりがある。とくに「3・1独立運動100周年」だった昨年は官民挙げて「日本とは戦って勝った」「日本何するものぞ」の気分にあふれ、貿易管理問題も不買運動も「抗日戦争」として反日世論動員が行われた。

GSOMIAやレーダー照射に見られる“危うさ”

 文在寅大統領自ら「1945年の光復は外からもたらされたものではない」(2018年8・15記念演説)と宣言しているが、そうしたジコチュウ的な対日戦勝史観は韓国社会に「日本何するものぞ」という意気揚々、威猛々しい雰囲気を生んでおり、日韓関係をいっそう困難にしている。

 たとえば対日戦勝気分はGSOMIA破棄問題やレーダー照射事件のような防衛・軍事問題にまで“ケンカ腰“となって現れているのだが、軍事問題におけるこうした感情傾斜は偶発性を伴うためきわめて危うい。「この危うさは対中関係以上かも知れない」というのが筆者の危惧するところだ。これは何としてもしっかり“管理“されなければならない。

(続く)

(黒田 勝弘/文藝春秋 2020年9月号)
2020年8月28日 6時0分
https://news.livedoor.com/article/detail/18803308/