【特別寄稿】浜矩子(同志社大学教授)

 菅新政権が発足しました。「アホノミクス」から「スカノミクス」への継承ですので、まともな経済政策からますます遠ざかっていくことになりそうです。これまで同様、“下心政治”の手段として経済運営が利用されるのでしょう。スカノミクスの背後でどんな下心がうごめくことになるのか。それを見極めていかなければなりません。

 でも「スカ」は「アホ」よりシタタカそう。彼には「奸佞」という言葉が最もふさわしい。奸佞首相は僕ちゃん首相より手ごわいかもしれません。アホノミクス、キラキラネーム付きの施策を派手派手しく乱発することで得点を稼ごうとしましたが、秋田の農家出身を売りにする「奸佞首相」のスカノミクスは、パフォーマンス型ではなく、地道さを強調するトーンでいくことになりそうです。国民にそう簡単には下心を探りださせないよう、権謀術数とさまざまな計略を繰り出してきそうです。

 野望がどの辺にあるのか。菅氏の危うさと不気味さは、さしあたりまだそこがよく見えないことです。安倍氏は「戦後レジームからの脱却」を前面に打ち出していた。すなわち、21世紀版の「大日本帝国」づくりを目指していることが目に見えていた。そこには、狂信的なイメージがあった。それだけ分かりやすかったわけです。

■奸佞首相の目的意識がどこにあるか

 一方、菅氏はマキャベリ(中世イタリアの政治思想家)が好きだという。マキャベリズムといえば、権謀術数の代名詞のイメージ。マキャベリアンといえば、策略家の定冠詞のようになっています。「目的のためなら手段を選ばない」という考え方の生みの親だと目されている。これは必ずしも正確ではないようですし、彼が全面的な悪の権化だったわけではないようですが、それにしても、奸佞首相がマキャベリ大好き男だというのはイメージピッタリ過ぎですね。問題は、奸佞首相の目的意識がどこにあるかです。それをこれから探り出さなければいけません。

 その点では「継承」とはいえ、肌合いは違ってくる。悪しき理念がありすぎるのも恐ろしいけれど、理念なく権力掌握に走るのも、その危険度合いは勝るとも劣らずです。

 気になるのは、秋田出身だから「地方や地域のことが分かっている」というスタンスを押し出していることです。「地方創生」の色合いをどう変えていくのか。安倍氏はどうしてもお坊ちゃんイメージや上から目線の雰囲気が出ていましたが、菅氏は「地域おじさん」みたいな感じで、安倍氏には出せなかった庶民派カラーを出してくるんじゃないか。アホノミクスを継承しながらも、ローカルで地道な雰囲気を醸し出し、国民受けを狙っていくのではないか。そこが気になります。

 スカノミクスには冷酷なものも伴いそうです。菅政権の下では「ゾンビ企業」の淘汰が進められそうです。会社も労働者も「ゾンビ」のレッテルが貼られないように戦々恐々としなければならない。

 とにかく、嫌われることを恐れないのがマキャベリズムです。チームアホノミクスの大将は結構弱虫でしたが、スカノミクス親父はマキャベリ仕込み。私も攻撃の的を失った「アホロス」に陥っている場合じゃありません。アホでもスカでもないまっとうな経済運営が到来する日まで、一段とギアを上げて奮闘していく。その決意を新たにした次第です。

(浜矩子/同志社大学教授)

2020年09月20日 15時00分 日刊ゲンダイDIGITAL
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/278975

浜矩子同志社大学教授

1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。朝鮮銀行総裁等を歴任
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