歴史は繰り返すのだろうか−。

 75年の間、大きな戦争は回避されてきたが、その国際協調もいよいよ正念場を迎えている。

 9月22日、国連総会で演説を行ったアントニオ・グテーレス事務総長は、「われわれは危険な方向に進んでいる」と危機感を表した。いうまでもなく米中対立を意識した発言で、「2つの経済大国によって世界を大分裂させるわけにはいかない」と続けた。

 この後にビデオ演説に登場したドナルド・トランプ大統領と習近平国家主席は、互いを牽制(けんせい)するように対立軸を際立たせた。

 現在、米中間には少なくとも2つの大きな対立軸がある。

 一つはマイク・ポンペオ国務長官が言及した「自由主義vs全体主義」であり、もう一つは中国の打ち立てた「多国主義vs一国主義」である。

 今回、トランプ大統領の演説への支持が今一つだと思えたのは多国間主義=国際協調の総本山である国連での演説だったからだろうか。決してそうではないだろう。

 というのもフィリピンのドゥテルテ大統領が「2頭の象の戦い」にたとえ、「踏みつけにされるのは地面の草」と語ったように、ほとんどの国にとってどうでもよい争いだからだ。

そして米中という巨象の戦いの前には共和党と民主党という巨象の対決もあり、トランプ大統領は民主党に勝利するために中国を叩いているのは明白だ。もちろんワシントンに蓄積された対中不信も根深いが、これとてすっきりした勝利が得られる可能性などなく、成果が上がっているとは言い難い。その一方で巻き込まれた国は確実に損をする−−イギリスはファーウェイ(華為技術)排除で第5世代(5G)移動通信システムネットワーク構築に2500億円前後の追加費用と2年から3年の遅れが生じたとされる−−のだ。

 正しく足し算ができれば、米中どちらの見方をするのが得策か、ではなく「対立をやめてくれ」との立場をとることが最も合理的だ。

 それにしてもアメリカは、米中貿易摩擦で中国に課した追加関税や発動した通商法301条がWTOによって「正当な根拠を有していない」と判断され、トランプ大統領が「WTOをただでは済まさない」と脅したり、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所がアフガニスタンに駐留する米兵が拷問を行ったとの疑惑を調査していた主任検察官などを「個人として制裁する」(ポンペイオ国務長官)と発言するなど、乱暴者然とした振る舞いを隠そうとしない。

 これでは全体主義との戦いといっても理解は得られないだろう。

■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

夕刊フジ公式サイト 2020.10.7
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