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【ワシントン=鳳山太成】トランプ米政権が「共産党員」の米国への移民を認めない法律を厳格に運用する方針を打ち出した。特定の国を名指ししていないが、党員9千万人といわれる中国共産党を狙い撃ちしているとの見方が多い。中国の一党独裁体制への圧力を一段と強める狙いとみられる。

米国土安全保障省傘下の市民権・移民局が10月上旬、移民政策に関する新たな指針を通知した。共産党や全体主義の政党に所属する外国人が、米国で永住権や国籍を取得するのを許可しない。米国人に帰化するときに「米国の憲法と法律を守る」と読み上げる宣誓と、共産党員であることが相反することを理由に挙げた。

東西冷戦下の1952年に定められた法律により、米国ではこれまでも共産党員の移民は認められていない。移民局は日本経済新聞の取材に「審査官が既存の法律を順守できるよう、追加情報を提供した」と話し、新指針を使って法律を厳しく執行する狙いがあると説明した。

今回の措置の背景には米中対立があることは間違いない。米司法当局は、米国の大学や企業から先端技術を持ち出した中国系米国人を起訴するなど、中国政府とのつながりが疑われるスパイへの警戒を強めている。市民権を取得すれば、米国内でアクセスできる施設や情報が一気に広がる。

日本やベトナムなどの共産党員も対象になり得るが、標的はあくまで中国共産党員との受け止めが多い。対中強硬派のポンペオ国務長官は「共産党と中国人は分けて考える必要がある」と発言、全体主義を推し進めているとして、中国共産党に矛先を向けている。

米外交問題評議会のアダム・シーガル氏は「トランプ政権は国内向けに対中強硬姿勢を示し、国外向けには共産党に反対という主張を広める狙いだろう。中国の指導部は党への攻撃と受け止める」と分析する。

米移民局は申請書類にある所属団体への記入欄のほか、面談や第三者からの明確な「証拠」を持って審査する。透明性に欠ける中国共産党の党員の判別は困難との見方もあり、シーガル氏は「個人の犯罪を摘発する際に(共産党員の隠蔽を)後から持ち出して材料に使うのではないか」と指摘する。

米国土安全保障省は、米市民権を取得できる権利がある中国生まれの永住権保持者が2019年時点で49万人いると推定している。メキシコ生まれに次いで多い。米メディアによると、中国人が米国の永住権や市民権を取りにくくなる事例が報告されており、こうした傾向に拍車がかかりそうだ。

トランプ政権はこれまでも特定の科学技術研究に関わる大学院生やジャーナリストの定期的なビザ更新を義務付けるなど対中規制を厳しくしてきた。米中対立が覇権争いの様相を帯びるなか、貿易やハイテクに限らず、人材面でも「デカップリング(分離)」が加速するかもしれない。

日本経済新聞 2020/10/15 19:09 (2020/10/16 4:47更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65048570V11C20A0FF1000/