日本学術会議の問題が連日、世を賑わせている。

任命を拒否された6人の学者はいずれも、安全保障関連法や特定秘密保護法など、菅内閣が引き継ぐ安倍前内閣の政策に反対をしてきた。さらには、6人のうち3人が日本共産党とのつながりが深い民主主義科学者協会(民科)法律部会の元幹部だ。

●少数意見を尊重するのが民主主義

官邸としては、こうした自らの政策に反する左派系の学者を日本学術会議から排除したかったとみられる。しかし、民主主義社会というのは、たとえどんなに意見が違っていても、少数意見を尊重すべきものだ。異論や反対意見は時に政策を研ぎ澄ます。その意味で、官邸があたかも問答無用の説明なしで、任命を拒否したのはいただけない。

ただし、2017年に軍事技術の研究に否定的な声明を出した日本学術会議に対し、官邸が苛立ちや憤りを募らせるのはよく理解できる。なぜなら、客観的に見ても、国民の生命と財産を守るべきはずの日本の防衛産業の基盤がかなり弱体化してきているからだ。

●防衛生産額は全工業生産額のわずか0.5%

防衛問題に詳しくない読者も多いと思うので、改めて日本の防衛産業の概観を説明したい。

データで示すと、日本の国内総生産(GDP)は現在、500兆円程度だ。そして、全工業生産額が331兆8094億円になっている(注1)。このうち、防衛に関する生産額(以下、防衛生産額)は、全工業生産額のわずか0.5%にすぎない約1兆7000億円にとどまっている(注2)。

日本の防衛予算が5兆円強なのだから、防衛生産額がその予算制約内の1兆7000億円程度であるのは理解できる。

●防衛生産額はパチンコ産業のわずか8.5%

その一方、公益財団法人・日本生産性本部の余暇創研が今夏に発表した『レジャー白書2020』によると、日本のパチンコ・パチスロ産業は20兆円規模に達している。つまり、国の大事な安全保障を担うべき日本の防衛生産額が、パチンコ・パチスロ産業のわずか8.5%(=1兆7000億円÷20兆円)にとどまっている。

防衛産業がパチンコ・パチスロ産業の1割にも満たないということはいったいどういうことか。これは日本が平和だからこういう状況になっているのか。あるいは、アメリカからF35戦闘機やオスプレイ、グローバルホークなどを爆買いし、アメリカの防衛装備品に大きく依存してきたからこうなっているのか。あるいは、日本はアメリカの核の傘に守られ、アメリカに安全保障を委ねてきたから、防衛生産費が低く抑えられてきたのか。

●日本は対GDP比で防衛費の支出が少ない

ストックホルム国際平和研究所によると、2019年の世界の防衛支出は1兆9170億ドル(約200兆円)で、アメリカがその38%を占める。アメリカに次ぐ中国は13.6%を占める。

日本は、他の先進国・地域比べても、対GDP比で防衛費の支出がかなり少ない。同じストックホルム国際平和研究所の2019年のデータによると、以下のようになっている。

米国  3.4%

ロシア  3.9%

韓国  2.7%

英国  1.7%

ドイツ  1.3%

中国  1.9%

日本  0.9%

アメリカのトランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に、国防費の対GDP2%の目標達成を強く求めてきた。これを受け、加盟国30カ国中、10カ国が2020年に2%を超える見通しだ。フランスとノルウェー、ルーマニアが新たに2%に達する。

世界の主要国に比べ、日本は防衛費が対GDP比で0.9%とかなり低い。この分、社会保障など他分野により多くの予算をつぎ込むことができ、恵まれてきたと言えるのかもしれない。

(続く)

高橋浩祐 | 国際ジャーナリスト 10/29(木) 16:06
https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20201029-00205359/